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Vol.8 (1987/4[086])

<特集>
単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルス


1987年1月から感染症サーベイランス対象疾病として,陰部ヘルペスなどSTDが追加された。このため,今後は病原体情報においてもSTD関連ヘルペスウイルスおよびクラミジアなどについて,検出報告範囲の拡大と報告数の増加が見込まれる。ここでは,本システムにおいて現段階までに収集された単純ヘルペスウイルス(HSV)およびサイトメガロウイルス(CMV)の報告状況をまとめた。

 ヘルペス群ウイルスの検出報告数は毎年増加している。これは民間検査所報告の増加によるものである。1980〜86年のHSVの合計報告数は3,047例で,このうち52%は地方衛生研究所(地研)から,40%は民間検査所から報告された。これに対し,サイトメガロウイルスは合計報告数1,376のうち93%が民間検査所における分離成績である(表1)。この期間中にHSVの検出を報告した地研は全体の約半数(36/68)で,検出数の22%について型別が報告された。一方,国立病院では27%,民間検査所においては68%に型別の成績が得られている。いずれにおいても1型が多く,型別されたHSVのうち,地研では83%,国立病院では65%,民間検査所では78%を1型が占めた。

 表2は1980年〜86年の分離報告をまとめて月別分布をみたものである。HSVとCMVはいずれも季節的変動がなく,年間を通じて分離される。

 表3は検体の由来である。HSV1型は鼻咽喉,皮膚病巣からの分離報告がそれぞれ45および42%で,眼ぬぐい液からは10%程度報告された。これに対しHSV2型は皮膚病巣が大部分(84%)を占め,鼻咽喉からの報告は5%であった。ここでいう皮膚病巣材料とは,陰部尿道頸管擦過物および分泌物を含むもので,これは現在の報告票の検体欄に特定のSTD関連記載項目がないためである。ちなみに,1984〜86年のHSV報告1,748例のうち286例は報告票の記載から陰部ヘルペス例とみなされた。CMVの分離材料は主に尿(73%),ついで鼻咽喉材料(28%)が多く,肺・気管支からの分離は2%報告された。

 HSVおよびCMVの検出はほとんどが培養細胞によるもので,これ以外ではモノクローナル抗体の蛍光抗体法による直接抗原検出報告がHSV1型に2例,2型に39例みられた。

図1は年齢別検出状況である。HSV,CMVとも0または1歳児の報告が最も多く,さらに20〜30代にピークがみられる。報告された0歳児の月齢ではいずれも新生児が多く,さらにCMVでは3ヶ月以上の月齢児からもコンスタントに検出が報告されている。

 表4および表5は臨床診断別および臨床症状別ヘルペス群ウイルス検出状況である。診断名および症状の記載のない例が民間検査所報告に多い。HSV検出例で多く報告されたヘルパンギーナのうち75%は地研におけるサーベイランス定点からの検出報告であった。陰部ヘルペスは「その他の診断名」の項目に含まれている。

ヘルペス群ウイルス検出例について報告された臨床症状をみると,HSV1型では発熱,上気道炎,口内炎,水疱などが頻度高く,さらに角・結膜炎,泌尿生殖器疾患など多彩な症状が示される。これに対し,HSV2型感染の半数以上は泌尿生殖器疾患例である。1,2型とも脳炎および髄膜炎の報告がそれぞれ2〜3%ずつあった。

 CMVでは発熱,先天性疾患,下気道炎・肺炎,肝炎,上気道炎などが10〜20%に報告され,また,脳炎および髄膜炎がそれぞれ3および4%報告された。CMVでは白血病など基礎疾患を持つ患者からの検出例の報告が多い。



表1.検査実施機関別ヘルペス群ウイルス検出状況(1980〜1986年)
表2.ヘルペス群ウイルス検出数の月別分布(1980〜1986年の累計)
表3.検体の種類別ヘルペス群ウイルス検出状況(1980〜1986年)
図1.年齢群別ヘルペス群ウイルス検出状況 1980〜1986年(年齢不明を除く)
表4.ヘルペス群ウイルスが検出されたものの臨床診断名(1980〜1986年)
表5.ヘルペス群ウイルスが検出されたものの臨床症状(1980〜1986年)





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