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Vol.8 (1987/4[086])

<国内情報>
結核・感染症サーベイランスの解析評価について(感染症週報 昭和62年第1週〜第5週)


昭和62年3月17日



本年1月から新しいシステムになり,従来の患者定点からの報告にはインフルエンザ様疾患,MCLS(川崎病)が追加され,病院定点ではウイルス肝炎が加わったほかに,脳炎の内容が変更された。また新たにSTD定点が設けられ,性行為感染症の情報が得られるようになった。

 定点設置数は現在,小児科内科定点2,380,眼科定点270,病院定点494,STD定点523である。小児科内科定点からの報告については,これまでの動きの延長として解析できる。患者発生の動向は,同一地域における報告数から把握しうるが,異なる地域の比較は,現在のところ定点当たり報告数に頼らざるを得ない。しかし,地域ごとの定点の状況ないし背景は多少異なるので,定点あたり報告数には,ある程度の偏りがあることも考慮して解釈する必要がある。

本年に入ってからの患者数の動きのなかで最も注目されるのは風しんの急激な増加と伝染性紅斑の多発である。麻しんは昭和59年の流行の後,60年はこれまで最低の発生であったが,61年,本年とやや増加の傾向がみられており,昨年末から本年初めにかけての発生数の上昇傾向をみると,警戒が必要と考えられる。流行性耳下腺炎は2,3年の周期で増減するが,昭和60年の流行後,次第に低下して現在は最低のレベルである。百日せきは次第に減少する傾向にあり,昭和59年以降は,昭和57,58年の発生数の1/2程度になっているが,その後は横ばいの状態で,少数の発生が続いている。季節的には水痘が多く,感染性下痢症,乳児嘔吐下痢症も12月から1月にピークを作る時期であるが,これらは例年なみのパターンを示している。ただし,乳児嘔吐下痢症のピークは,今シーズンは低かった。今年から対象疾病に加わったインフルエンザ様疾患は,1月に流行のピークに遭遇したが,流行の規模は小さいものであった。

 風しん:風しんは全国的には数年間隔で流行しているが,最近は地域差がめだつようになった。全国的には流行がない時期でも,少数の地域ではかなりの流行がみられているので,それぞれの地域の状況に合った対応が望まれる。昨年11,12月から全国平均では,例年の同時期を上回る発生がみられ,本年に入ってからも増加が続いている。このことは,本年の流行がかなりの規模になることを推測させる。定点当たりの報告数の動き,累積報告数からみると,いくつかの地域では全国平均の3〜5倍の発生がみられ,青森県,徳島県,北九州市の発生が多く,岩手県,千葉県,埼玉県,東京都,鳥取県,福岡県,京都市など急増の傾向をみせているところも多い。風しんの流行は,3,4月から患者が急増し,5月終わりから6月初旬にピークに達するのが普通なので,今後の状況に十分注意されたい。

伝染性紅斑:昭和56年の流行後は落ちついて,少数の発生をみるに留まっていたが,61年前半に急激な増加があり,7月第3週(第29週)にピークを作った。この流行を起こした地域は比較的限られ,東京周辺(東京,神奈川,埼玉,千葉),東海地方(静岡,愛知),山陰地方(鳥取,島根)に多く,その他いくつかの県(宮城,山形,奈良,大分等)にも多発がみられたが,全く流行をみなかった地域も多かった。その後,流行は急速に治まったが,再び11月から急上昇に転じ,全国平均でみると,12月第2週には7月のピーク時のレベルを越え,本年に入っても高い発生が続いている。今回の流行による患者発生は,宮城,千葉,福井,三重,京都,鳥取,島根,高知などに多いが,その他に増加中の県もあり,流行はほとんどの都道府県に及んでいる。現在まで流行がみられていないのは山梨,沖縄くらいである。この流行がどう推移するか予測することは難しい。通常は,伝染性紅斑は12月頃から増加し,7月まで発生が続き,夏期に急激に低下する傾向がある。今回の流行の山は地域によりかなり時期や規模に偏りがあろうが,全般的には7月頃まで多少下がった形で患者発生が続くと考えるのが適当であろう。

 病院定点,STD定点からの報告は月報で,現在まで1月分の報告が集計されたばかりである。したがって,その解析は今後のデータの蓄積を待つほかはない。

 MCLS(川崎病)は本年から対象疾病に加えられたが,以前からこれを対象疾病に加えていた都府県もあり,その状況から判断すると,現在のMCLSの発生はごく少ないということができる。

 (参考)定点当たり報告数について

 地域ごとの定点当たり報告数にどの程度の偏りがあるかをみるために,これまでの感染症サーベイランスの水痘報告数について検討した。水痘はほとんどが顕性発症し,1回の罹患でまず一生の免疫ができるので,その発生数はその地域の出生数に近く,また予防接種も行われていないので発生は自然感染のままに起こっている疾患なので,これを指標としてとりあげた。

 各都道府県,指定都市の昭和57年から61年まで4年間の水痘年間報告数をそれぞれの年度の平均定点数で除して,年度ごとの定点当たり水痘年間報告数を求め,その4年間の平均を計算した。4年間の全国平均年間報告数は定点当たり113.56人で,これを100とした時の各都道府県,指定都市の定点当たり平均年間報告数の比率を求めた(図)。いくつかの県で全国平均より50%以上の偏りがあるが,大多数は全国平均±50%以内にあり,2/3 は±30%以内に分布している。

水痘と罹患年齢の近い疾患については,それぞれの都道府県の指数で除して比較することによって,より実態に近い数値が得られると考えられるが,定点当たり報告数によっても多少の偏りがあることを考慮して解釈すれば,実用的には大きな問題とはならないと考えられる。



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会


図 57〜60年の4年間の水痘定点当たり平均年間報告数の全国平均に対する比率 全国平均年間報告数は定点当たり113.56でこれを100とした時の各都道府県,指定都市の比率を求めた





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