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昭和62年4月22日,東京都五日市町に居住する60歳の男性がツツガ虫病に罹患していることが確認された。患者は臨床的にもツツガ虫病の疑いが強く持たれていたが,東京都立衛生研究所において行われた血清学的検査でツツガ虫病と確定診断された。
この血清学的検査は,東京都におけるツツガ虫病防疫対策の一環として衛生研究所が担当することになった間接蛍光抗体法(IF)によるツツガ虫病迅速検査体制によるものである。本制度は昨年6月1日に発足し,一般医療機関からも広く検査を受け付けており,本症例は同検査体制確立後における初めての陽性例である。また,本症例は発病前の生活歴から感染は3月下旬で,患者の所有する桧原村の畑地周辺が感染場所と推定された。発病は4月初めで,発熱,頭痛,偏頭痛等の感冒様症状をもってはじまり,近医を受診したが快癒せず,4月11日頃には発熱が40℃にも達し,また13日頃より顔面から胸部にかけ発疹が認められるようになった。そして18日に下熱せぬまま五日市町の某病院に入院した。
主要症状は38〜40℃の高熱,激しい頭痛,顔面から体幹部および上腕部にかけての顕著な発疹等である。主治医は感染症を疑いセファロスポリン系広域抗生物質の投与を試みたが,患者の症状は改善されなかった。その後,21日に主治医が診察のおり患者右側腹部に直径1cm弱の痂皮状のものを発見,皮膚科医師とも協議し,ツツガ虫病の特徴である「刺し口」ではないかとの疑いが持たれた。このため,ただちに治療をテトラサイクリン系のミノマイシン投与に切り替えるとともに,所轄保健所へ連絡,確定診断を行うため採血が行われた。衛生研究所では22日に血液を受け取り,ただちに検査を実施,血清反応は陽性であった。患者は医師の適切な治療のもと速やかに快方に向かった。
なお,この患者の血液はミノマイシン投与1日後のものであり,かつ採血から検体搬入まで数時間を要したことなど条件の悪いものであったが,念のためマウス腹腔内接種によるリケッチア分離を試みた結果,約10日後にマウスは典型的に発症し,それよりリケッチアの分離に成功した。この分離リケッチアの型別については現在検討中である。
東京都におけるツツガ虫病の発生地域はこれまで伊豆七島のみに限局されていたが,昭和59年12月に町田市で初めての患者発生があり,今回の症例が島しょを除く都内での2例目となった。
衛生研究所では昭和60年4月から町田,五日市および福生の各保健所と協力し,各管轄地域における野鼠のツツガ虫病リケッチア汚染状況の調査を行ってきた。この結果,各地域とも同リケッチアの汚染が確認されていた。ちなみに昨年11月に実施した調査では,今回の感染推定地とされた桧原村の捕獲野鼠からもリケッチアが分離されている。すなわち,東京都内と言っても一歩郊外に出れば,ツツガ虫病感染の危険性があるといえる。
東京都立衛生研究所 伊藤 忠彦
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