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Vol.8 (1987/6[088])

<国内情報>
生カキが推定原因食とされた集団食中毒患者ふん便中に電顕的に検出されるSRVの検出状況


近年我が国の内外において,二枚貝類を推定原因食とし,非細菌性で,ウイルスに起因すると考えられた集団食中毒が報告されている1〜6)。報告されたウイルスはCockle agent,Norwalk virus, small round structured virus などのいわゆるsmall round virus(SRV)で,患者回復期血清中に有意な抗体上昇が認められることから,検出されたSRVは起因ウイルスと推定されている。

 大阪府においても,毎年冬期に,カキが推定原因食と考えられる非細菌性の集団食中毒が発生していた。我々は行政の協力の下に,原因ウイルスを追求するため,1984年12月よりウイルス学的検索を実施してきた。これまでに検体採取のできた発生例ごとのSRV検出状況並びにSRVの形状について報告する。

対象:1984年12月から1987年1月の間に大阪市内で発生届けのあった,カキを推定原因食とする食中毒発生例のうち,患者急性期便を採取し得た12発生例を検索対象とした。

材料と方法:患者より5病日以内に採取し得たふん便にPBSを加え,10%乳剤を速やかに作製,3,000rpm20分の上清をさらに10,000rpm10分遠心し,その上清を採取した。上清の一部はロタR−PHA反応に供し,また一部はウイルス分離用に供した。残りの上清は50,000rpm(日立RP-65ローター使用)60分遠心,沈渣を少量(約1/50量)の0.2%ショ糖水溶液に懸濁し,3,000rpm10分遠心後,上清を電顕観察用に供した。電顕観察は既報7)の方法に準じて実施した。

 SRVの検出状況:検索対象とされた12発生例中8発生例にSRVを検出し,各発生例における検出状況を表1に示した。全発生例を通じて検索した78検体中24検体(31%)にSRVを検出した。2発生例において,SRVの排泄期間を検討することができた。bS/86発生例においては,発病後8日目のふん便中にSRVを検出,以降14日目までは検出できなかった。他方bT/86発生例においては発病後3日目採取ふん便中にSRVを検出,以後7日目までのふん便中にはSRVは検出されなかった。両発生例において,排泄量は発病後急速に減少することが認められた。ゆえにSRVの検出には,できる限り早い時期,少なくとも5病日以内に採取し得た材料を用いることが必要であると考えられる。検索に供した78検体中に他のウイルス粒子(ロタウイルス,アデノウイルス等)は検出されていない。

検出されたSRVの形状:8発生例において検出されたSRVのネガティブ電顕像を図1に示した。粒径は35〜45nmで,辺縁に突起状構造物を有した粒子で,各粒子は相互に類似した形態を有していた。我々が検出しているSRVはCaul等8)の分類によるとsmall round structured virusに属するウイルスであると思われる。検出されたSRV粒子の微細構造については検討中である。

患者のふん便中に高率にSRVが検出されること,患者のペア血清とSRVを用いた免疫電顕法により,回復期血清に有意な抗体上昇が認められること,一方,他ウイルスや病原細菌が検出されないこと等から,検出されたSRVは起因ウイルスである可能性が大きいと考えられる。

文献

1) Appleton et al. : Lancet i,780(1977)

2) Murphy et al. : Med. J. Aust. ,2,329(1979)

3) Gunn et al. :Am. J. Epidemiol. ,115,348 (1982)

4) Gill et al. :Br. Med. J. ,287,1532(1983)

5) 関根整治他:感染症学雑誌,60,453(1986)

6) 春木孝祐他: 大阪市環科研研究年報,48,129(1986)

7) Kimura et al. : Infect. Immun. ,17,157(1977)

8) Caul et al. : J. Med. Virol. ,9,257(1982)



大阪市環境科学研究所 春木 孝祐 村上 司 蓑城 昇次 木村 輝男


表1.生カキ関連集団食中毒発生の概要(1984.12〜1987.1)
図1.8発生例において検出されたSRVのネガティブ電顕像





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