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Vol.8 (1987/6[088])

<国内情報>
結核・感染症サーベイランスの解析評価について(感染症週報 昭和62年第1週〜第13週・感染症月報 昭和62年1月〜3月)


昭和62年5月14日



 第1四半期(第1週〜第13週)が終了した時点での小委員会の解析結果を報告する。

 概況:現時点の最大の動きは風しんの全国流行である。前回の流行は昭和57年であったが,5年目の流行となった。伝染性紅斑は昨年から流行しているが,秋にいったんおさまった後11月から急増し,本年に入っても現在まで高い発生が続いている。麻しんは最近かなり減少しているが,3月に入って全国平均ではやや増加している。これは一部の県での流行を反映したものである。その他の小児科内科定点からの疾病報告では,季節的に乳児嘔吐下痢症,感染性胃腸炎がおさまり,インフルエンザ様疾患は,第4週のピーク(定点当たり18.82人)の後,急速に低下してきたところである。夏季に流行する手足口病,ヘルパンギーナ,咽頭結膜熱は,まだ上昇傾向は目立っていない。水痘は多い時期であるが,例年なみのパターンで,流行性耳下腺炎は最低の発生状態である。百日せきは少ないが,このところ横ばいの状態である。その他の疾患も特に目立った動きはみられない。

 眼科定点からの咽頭結膜熱,流行性角結膜炎,急性出血性結膜炎も夏に向かって増加するが,まだ特に目立った動きはない。

病院定点からの月報は3ヵ月分がまとまったところで,新たに対象疾病に加わった肝炎もコメントをつけるほどには至っていないが,A型肝炎は1月から3月にかけて,定点当たり報告数が約2倍になっている。MCLSその他の疾病の定点当たり報告数はあまり変わっていない。

 風しん:総報告数は第7週から急上昇し,昭和57年の全国流行を上回る勢いをみせている。全国的に増加しているが,ブロック別には関東甲信越がもっとも多く,次いで東北ブロックで,北海道が少ない(第1四半期の定点当たり累積報告数は,全国平均43.09,関東甲信越69.34,東北49.45,九州沖縄36.61,中国四国34.04 ,東海北陸31.46,近畿24.62,北海道11.21)。都道府県別には青森,埼玉,千葉,徳島,福岡が多く(定点当たり累積報告数100以上),指定都市では北九州市が特に多い。沖縄県ではほとんど流行がない。風しんの流行は5月末から6月にピークとなり,7月以降急激に減少するので,それまでの期間は特に注意が必要である。

 風しん対策:風しんの罹患により,もっとも被害を受けるのは妊婦なので,妊娠年齢の女子に対する対策が第一となる。風しん対策の基本は,風しん抗体検査とワクチン接種である。風しんワクチンの定期接種は,昭和52年秋から,中学生女子(主として3年生)を対象に開始されたので,現在の高校生から24〜25歳までの女子の免疫度は高いが,それ以上の年齢層の免疫度は低く,約30%は免疫を持っていない (本月報87号20ページ図3参照)。 このために,過去に風しんにかかったことも,風しんのワクチンの接種を受けたこともなく,近く妊娠を予定しているもの,妊娠中のもの,特に妊娠初期のものは,風しん抗体検査を行って免疫の有無を知ることが大事である。

 風しんワクチンの接種を受けたものは,90%以上は免疫が持続している。風しんにかかったものは免疫があるが,風しんにかかったという記憶はしばしば不確実であり,また,他の発しん性疾患と間違えていることも多いので,これらも抗体検査によって免疫の有無を確かめておくことが望まれる。風しん抗体検査の結果,免疫がないと判定されたものは,妊娠していない場合は,ワクチン接種が勧められる。ワクチン接種後は少なくとも2ヵ月間の避妊が必要である。妊婦はワクチン接種は禁忌である。免疫がないと判定された妊婦は特に流行期間中,できるだけ患者との接触を避けるなどの注意をするしかない。妊婦の家族のうち,免疫のないものにワクチンを接種して,家庭内に風しんを持ち込まないようにすることも一つの方法である。流行の中心は幼児,学童であるが,罹患年齢の幅は大きく,成人も罹患する。風しんワクチンは,年齢,性別の制限はないので(通常1歳以上に接種される),希望者には接種することが勧められる。

 麻しん:昭和59年の全国流行の後,低い発生が続いているが,本年は,昨年,一昨年の2〜3倍の発生である。これは一部の県での流行を反映したもので,滋賀,岡山,広島,大分等では,59年の全国平均を超える流行が認められている。その他の県でも一般に,増加傾向がうかがわれる。第1四半期のブロック別定点当たり累積報告数からみると,関東甲信越,東北ブロックは少ないが,北海道と西日本に多い(全国平均が8.38,北海道16.90,東北2.83,関東甲信越1.90,東海北陸6.13,近畿10.26,中国四国16.14,九州沖縄17.57)。都道府県別では,北海道,福井,岐阜,奈良,鳥取,高知,福岡が全国平均の2倍以上,滋賀,岡山,広島,大分,宮崎が3ないし6倍の発生である。

 伝染性紅斑:6年ぶりに昨年からはじまった流行は秋にいったん低下した後,11月から急増し,本年に入っても現在まで高い発生が続いている。山梨と沖縄では流行はないが,これを除いた全国的な流行であり,昨年流行したところでもかなりの流行がみられている。第1四半期のブロック別定点当たり累積報告数からみると,東海北陸,近畿,中国四国に多く,北海道が少ないが,その差は小さい(全国平均15.76,北海道9.30,東北15.25,関東甲信越12.92,東海北陸17.62,近畿19.86,中国四国20.12,九州沖縄12.57)。県別では鳥取(定点当たり累積報告数34.64 ),島根(36.58),北九州市(33.50),福岡市(46.54)の多いのが目立っており,山梨(1.05),沖縄(1.58)がもっとも少ない。

性行為感染症:サーベイランス対象5疾患の開始より3ヵ月の消長について,月別診療日数の調整を行った上,1月を100.0とした指数でみると,おおよそ次のとおりである。

5疾患合計報告数:100.0→78.4→72.6

 淋病様疾患 :100.0→66.1→63.7

 陰部クラミジア :100.0→84.9→76.4

 陰部ヘルペス :100.0→87.8→77.3

 コンジローム :100.0→70.7→66.4

 トリコモナス :100.0→100.9→92.5

 トリコモナス以外はすべて大幅な減少がみられ,とくに淋病様疾患とコンジロームに著しい。この傾向は北海道を別にすれば,報告のあったすべての都道府県・指定都市に共通してみられる。北海道は特異的な消長を示し,5疾患合計100.0→123.9→104.3,報告数最多の淋病様疾患をみても,100.0→117.5→97.8である。

淋病様疾患1.0に対する陰部クラミジアの比は1月,2月,3月とそれぞれ0.61,0.78,0.75であるが,都道府県のばらつきは著しく大きい。陰部クラミジアが1定点当たり月2.00以上かつ月20以上の報告数のある都道府県・指定都市において,淋病様疾患を凌駕する報告数のあったところは以下のとおりである。

1月:山形,群馬,長野,福島,宮崎,鹿児島,(報告45都道府県中6);報告8指定都市には該当市はない。

 2月:群馬,大阪府,鹿児島(46のうち3);指定都市:大阪市,福岡市(9のうち2)

 3月:山形,栃木,群馬,新潟,長野,大阪府,宮崎,鹿児島(46のうち8);指定都市:川崎,大阪府(9のうち2)

 以上報告のあった都道府県・指定都市のなかで,1,2,3月とも陰部クラミジアの報告の方が多かったのは群馬と鹿児島県であり,それぞれ淋病様疾患の1.3,1.5(1月),1.3,2.1(2月),1.9,2.1倍(3月)であった。

 北海道を除いての報告数の著減はAIDSに対する警戒心の影響とも考えられるが,北海道の動きについては説明できず,今後の消長を監視したい。

 陰部クラミジアの報告については,なお検査の普及度ならびにその診断基準,精度等に問題が残されているとすれば,今後の課題であろう。



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会





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