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性行為感染症(STD)の主要な病原体のひとつとして近年その蔓延が注目されているChlamydia trachomatisについて,1986年3月から長野赤十字病院産婦人科を定点として,浸淫状況の調査を行った。
検診のため産婦人科を訪れた妊婦を中心としてELISA法(Chlamydiazyme)によるスクリーニングを行い,ELISA法陽性の検体および症状などからクラミジア感染が強く疑われた検体の一部について,HeLa229細胞による分離培養を行った。
分離培養は,厚生省レファレンスシステム研究班の「クラミジア検査法」に準じて行った。すなわち,DEAE-デキストラン処理をしたHeLa229細胞へ検体を接種し,430×gで1時間遠心吸着後,37℃1時間静置吸着させた。その後シクロヘキシミド添加のクラミジア用培養液を加え,CO2培養器で72時間培養した。封入体の確認にはモノクローナル蛍光抗体(Micro Trak)を用いた。
2,460検体についてELISA法によるスクリーニングを行ったところ,221検体(9.0%)が陽性であった。
HeLa229細胞による分離培養は90検体について行い,うち52検体からC. trachomatisが分離された。細胞培養とELISA法との成績の比較を表1に示した。陽性一致率は98.1%(51/52),陰性一致率は76.3%(29/38)であった。
図1はELISA法吸光度と培養法での封入体数が明らかであった検体53件について,その関係を示したものである。検体により吸光度が高いにもかかわらず封入体数の少ないものがある一方,吸光度が低くても封入体数が150以上も認められるものがあるなど,封入体数と吸光度との間には相関関係は認められなかった。しかし,吸光度0.5以上の検体の分離率は89.2%(33/37)と高い値を示したが,吸光度0.5未満の検体の分離率は50.0%(8/16)と前者に比べ低い値を示した。吸光度の高い検体からは高率にC. trachomatisが分離され,分離率には明らかな差が認められた。
また,表2に示したように,患者の年齢は10〜50代まで幅広い年齢層にわたっていたが,20〜30代が全体の75.6%を占めていた。
調査対象のほとんどが,普通の家庭の主婦や会社員であったにもかかわらず,ELISA法によるスクリーニングで9.0%という高い陽性率が得られ,52株にものぼるC. trachomatisが分離された。
長野県においてもC. trachomatisは潜在化した形で,相当広範囲に浸淫しているものと思われる。今後さらにデータを積重ね,衛生教育などの機会をとらえて注意を喚起していきたいと考えている。
長野県衛生公害研究所 中村和幸 西沢修一 小山敏枝
表1.クラミジア・トラコマチス検出における細胞培養法とELISA法との成績の比較
図1.クラミジアトラコマチス検出におけるELISA法吸光度と封入体数との関係
表2.年齢別の分離成績
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