|
最近の性風俗の変化や人々の性に対する解放的な態度から,STDの病原体が口腔・咽頭領域に直接感染することは珍しいことではなくなってきた。Chlamydia trachomatisは新しいSTDの病原体として脚光を浴びており,性行為とくにorogenital sexによって感染した咽頭炎の報告もみられるようになった。
我々ははじめfellatioを行った後で咽頭痛がおこり来院した女性の扁桃陰窩よりC. trachomatisを分離培養したことから,咽頭痛および咽喉頭部の異常感を訴えて来院した患者の扁桃よりC. trachomatisの分離培養を試みた。
対象患者
1.しばしば扁桃炎にかかるが,抗生剤等の治療に一時的によく反応する習慣性扁桃炎患者
2.高熱や激しい疼痛を伴うことはないが,軽度の咽頭痛が長期間続いている症例
3.咽喉頭異物感を強く訴えて来院した患者
方法:細い滅菌綿棒を用いて扁桃陰窩分泌物を採取し,HeLa229細胞を用いてC. trachomatisを分離培養した。扁桃陰窩の病原体が確認された患者は血清を採取し,Micro I. F. 法にて抗体価も調べた。
結果:52名の患者で検査を行ったが,C. trachomatisが分離された者は10名(19.2%)であった。咽喉頭異物感症の8例を除くと,44名の扁桃炎患者の22.7%(10/44)でクラミジアが検出されたことになる。10例中9例では血清抗体価も確認した。
感染経路:一般的に咽頭痛や咽喉頭異物感を訴えて耳鼻咽喉科を受診する患者でorogenital sexによって感染したのではないかと始めから訴える者はいない。大概はorogenital sexが発病の原因になることに気付かないか,あるいはそうかもしれないと思っても隠す。したがってC. trachomatisが分離されて,改めて問い正すことになるが,10例(1例は1歳の小児)中6例(男3,女3)ではorogenital sexが原因であることが分った。1例は相手からも同じ抗体が検出された。成人の残り3例はいずれも女性であるが,orogenital sexを強く否定した。1例は婦人科医にも診断してもらったが,性経験すらないとのことであった。小児の1例は反復性中耳炎と扁桃炎のために来院した症例であるが,両親からも同じ血清型抗体が検出され,母子間(経産道)感染によることが考えられた。この母親は産後,しばしば扁桃炎を患い当院で手術を受けているが,当時クラミジアの検出は行っていなかった。
治療:従来から言われているように,マクロライド系,テトラサイクリン系抗生物質およびサルファ剤が有効であった。咽頭に感染したクラミジアの場合,これらの抗菌薬を1〜2週間内服すれば消失するようである。1歳児の場合はエリスロマイシン,シノミンを内服してもクラミジアは消失せず,半年後にミノマイシンを内服して病原体が消失した。
北里研究所病院耳鼻咽喉科 小川 浩司・田中 寿一
北里大学衛生科学検査研究センター 和山 行正
|