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Vol.8 (1987/8[090])

<国内情報>
1986年分離A群レンサ球菌のT型別成績について


 1986年確定データによると,全国のA群レンサ球菌分離・T型別数は以下のとおりである。すなわち,地研・保健所集計では23地域で計2,124株が分離され,うち20地域で計2,108株(99.2%)がT型別された。また,医療機関集計では30地域で計10,142株が分離され,うち5地域で計492株(4.9%)がT型別された。以下,この型別成績の内容をもとに,1986年の菌型分布の特徴と,その地域差について検討した結果を述べる。

 菌型分布の概要:表に示すように,主要菌型は地研・保健所株では12型(29%),3型(25%)および4型(18%),医療機関株では12型(47%),4型(13%)および3型(11%)であり,いずれもこれら3種の菌型が全体の約7割を占める主要菌型である点で共通していた。その他の菌型については,地研・保健所株では28型(6%),6型(4%),1型(3%),18型(3%),以下低率に2,8,11,13,22,23,B3264,5/27/44,14/49の各菌型がみられ,型別不能は3%と低率だった。一方,医療機関では28型(7%),11型(4%),1型(4%),13型(3%),以下低率に6,8,18,22,B3264,5/27/44の各菌型がみられ,型別不能はこちらも2%と低率だった。以上,大局的にみて地研・保健所株と医療機関株の菌型分布パターンは大同小異であるといえよう。次項以下で,いくつかの観点から菌型分布の解析を試みるが,その際2×2分割表によるカイ二乗検定の結果を判断の参考とした。

 地研・保健所および医療機関株の菌型分布の比較:この両者を同一地域で比較できるのは,富山,福井,大阪,広島(広島は県と市の差はあるが)の4地域のみである。このそれぞれにつき,主要3菌型の出現比率を比較すると,12型ではいずれの地域においても差はみられず,3型・4型に関しても3型が富山で,4型が広島でそれぞれ地研・保健所株のほうが高率だった他は差がみられない。ただし,富山の場合以外は比較対象の一方ないし双方の株数が少ないので,結論の信頼性は低くなる。従って,12型や4型については地研・保健所株と医療機関株の間に比率の差があるという確かな証拠はないということと,3型については富山では地研・保健所株に多かったことが指摘できよう。

 菌型分布の地域差:表に各地における出現菌型の百分率を示す。ただし,一部の菌型についてはその他の項にまとめて表示した。また,医療機関については地域名の後に*印を付けて区別した。地域別に分けると,それぞれの型別数は4〜451株と大幅に異なっていて,これらを同じウエイトで比較するのは問題があるので,以下単一地域として取り上げるのは型別数40株以上の地域のみとする(地研・保健所13地域,医療機関3地域,計16地域)。

 地域に分けても全体的な印象としては,やはり前記の主要3菌型が優位を占める印象を受けるが,個別にみると多様なパターンが存在している。まず各地の首位菌型をみると,12型が1位を占めるのは,秋田,神奈川,新潟,富山,富山*,静岡,滋賀,大阪,山梨*,広島*の10例,3,4,12型がほぼ同率首位は埼玉の1例,3,12型がほぼ同率首位は香川の1例,3型が首位は青森,福島の2例,4型が首位は高知の1例となっており,残る島根では1型が2位の12型を大きく引き離して1位となっていて,今回の成績の中でも特に異質なパターンを示している。これほど極端ではないが,1型は新潟,山梨*,広島*などでも比較的高い値を示している。また,他の菌型では6型が福島で,18型が新潟で,28型が埼玉で,それぞれ比較的高い値を示している。一方,主要3菌型でも地域により主要とは呼べない低率の所があり,比率が10%を切る地域としては,12型では青森,3型では大阪,島根,高知,山梨*,広島*,4型では新潟,富山,富山*,島根,香川がある。

 次に地理的に近いものに菌型パターンの類似性が高いかというと,そのような関係も認められない。青森・秋田・福島相互間,埼玉・神奈川間,新潟・富山間,滋賀・大阪間,香川・高知間のいずれにも明らかな相違点が見いだされる。たとえば香川と高知の3型と4型の比率は全く逆転している。逆に地理的に遠ければ差がはっきりしてくるかといえば,そのような一定の傾向も認められない。

 以上の所見をまとめてみると,巨視的には全国的な主要菌型グループが存在し,各地域がこれから大きくはずれることは少ないが,微視的にはたとえ近県であっても菌型分布が異なり得るということになる。これは本年のみの特色ということではなく,むしろ本菌の示す通常の現象といえる。今回の主要菌型グループはいずれも従来からの主要グループに属している。この主要グループの菌は何年かの周期で消長を繰り返し,互いに順位を交替しながら全体で主要グループを形成しているのだが,本菌の伝播速度は通常あまり速くないので多少離れた地域ではピークのズレを生じよう。実際には局地的流行にとどまることも多い。その他,地域差の原因として種々考えられるが,充分解明されているわけではない。全国規模での長期間にわたる調査を続けることは,この意味でも重要なことである。

国立予防衛生研究所 永瀬 金一郎








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