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Vol.8 (1987/8[090])

<国内情報>
ヒトパルボウイルス感染による胎児性水腫の確定診断


 伝染性紅斑(りんごほっぺ病)の病原はヒトパルボウイルスであることが近年確定的になった。伝染性紅斑と死・流産の関係については,1984年以来英国で数例報告があるが,我が国ではまだなかった。今回我々は,英国PHLSより分与を受けたヒトパルボウイルスB19DNAプローブおよびモノクロナル抗体を用いて,胎児性水腫による死・流産例4例を検索し,そのうち2例について血清抗体検出およびDNA hybridizationによりB19ウイルス感染を確認した。1例は,妊娠18週頃長女(5歳)が伝染性紅斑に罹患し,母親も軽い発疹を呈したが,その後順調に経過した。26週の時,超音波診断により胎児性水腫が疑われ入院,その後胎児死亡で分娩した。母体血清は分娩後4日目にIgM(+),IgG(+),1ヵ月後IgM(−),IgG(+)となった。胎児の肝,脾,肺,腎および胎盤よりウイルスDNAが検出された。もう1例は,伝染性紅斑を示す所見のない妊婦が妊娠26週齢で胎児性水腫で流産。母体血清は分娩時IgG(±),IgM(−)。5ヵ月後IgG(+)となった。胎児の肝および脾よりウイルスDNAが検出された。他の2例は,母体血清抗体(−),胎児臓器のDNAも陰性であった。

 ヒトパルボウイルスは,現在まだ培養法がなく,抗体測定用の抗原は,血液センターの血漿を数万検体スクリーニングして抗原陽性例を探し出し,濃縮,精製して用いるという方法に頼っている。ウイルスの検出も,クローン化したDNAを用いたhybridizationであるため検査は一般化しにくい。今後,モノクロナル抗体の作成,および自前のクローン化DNAの作成を行い,一般的な方法による抗原および抗体スクリーニング法を確立して,ヒトパルボウイルス関連疾患の研究の発展に寄与したいと考えている。



国立予防衛生研究所 松永 泰子 松倉 俊彦





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