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昭和62年8月31日
第2四半期が終了した時点での小委員会(7月23日開催)の解析結果を報告する。
概況:昭和57年以来,5年ぶりの全国流行となった風しんは,前回を上回る発生であったが,第22週をピークとして,その後急速に減少している。
昨年11月から急増した伝染性紅斑は,本年に入っても,現在まで高い発生が続いているが,例年の発生パターンからみると7月末から8月に減少する見込みである。
第2四半期には,風しんに次いで報告数の多かったのは水痘である。この発生パターンは例年なみであったが,5月から6月にかけての発生はかなり多かった。これも例年通り7月から8月に減少する見込みである。なお,本年春から水痘ワクチンが市販開始となり,感染予防が可能となった。
この時期は,エンテロウイルス,アデノウイルスによる夏型感染症が動きだす時期である。ヘルパンギーナは早期に立ち上がりを見せ,第20週頃から増加傾向が著しかったが,その後の動きからみると,平年なみか,幾分それを上回る程度の発生と推測される。これに対して,手足口病は少ない。第1〜26週の定点当たり累積報告数は4.19人であるが,沖縄県は40.23人と特に多く,その他宮崎県29.63人,鹿児島県19.00人,長崎県10.15人と九州・沖縄ブロックでの発生がめだっている。その他では,宮城県11.72人,千葉県10.23人が累積定点当たり10人以上である。無菌性髄膜炎も病院定点からの6月までの月報では例年よりも少ない。
咽頭結膜熱も増加し始めた。59年に大きな流行があったが,その後はあまり大きな流行はない。本年のこれまでの状況は平年なみであるが,3〜5年ごとに大きな流行がみられるようであり,今年か来年が流行年と予想されることから,今後の注意を要する。これに対して,流行性角結膜炎は少ない。急性出血性結膜炎(AHC)はほとんど動きがない。沖縄では,60年,61年とコクサッキーウイルスA24型(CA24)によるAHCが流行したが,他府県では,これまでのところ,このウイルスの流行がみられておらず,このウイルスに対する抗体保有者もほとんどいない。したがって,沖縄以外では,CA24によるAHCの流行の危険性は大きく,今後このウイルスによる結膜炎の発生状況に注目したい。
その他の疾患では,麻しんは59年の流行の後,60年はこれまでの最低の発生であったが,その後はわずかながら増加傾向がみられる。本年第26週までの累積報告数は40,586人,定点当たり17.04人で,昨年同期の定点当たり10.38人を上回っている。これは一部の地域での流行を反映したもので,大分県では累積定点当たり83.70人,岡山県78.69人,滋賀県57.03人,広島県58.68人,指定都市では北九州市59.20人が全国平均の3倍から5倍の発生を認める。大規模な流行のきざしはないが,一層のワクチン接種の推進が望まれる。
流行性耳下腺炎は60年の流行ピークの後,61年夏以降低下し,本年前半は最低の発生であった。本年の26週までの累積報告数は31,676人,定点当たり13.30人と,昨年同期の50.05人よりかなり少ない。しかし,一部の県では流行がみられるところがあり,徳島県の累積定点当たり78.53人,沖縄県51.31人,大分県47.52人,鳥取県46.79人が多い。
百日せきは59年以降,発生は少ないものの横這いの状態である。本年第26週までの累積報告数は6,612人,定点当たり2.78人で,昨年同期の2.61人と同程度の発生である。
風しん:本年の風しん流行は,第7週から急上昇し,第22週に定点当たり10.71人のピークに達した後,急速に治まりつつある。前回の57年の流行のピークは定点当たり9.27人で,本年はそれをやや上回る流行規模となった。昨年は神奈川県や近畿ブロックでかなりの流行がみられているが,他の多くは今年から流行が始まっているので,63年においてもかなりの流行があることを留置する必要がある。本年第1〜26週までの累積報告数は363,695人,定点当たり152.68人で,ブロック別には,東北(定点当たり229.17人),関東甲信越(211.50人)で流行規模が大きく,次いで九州・沖縄(148.06人),東海・北陸(138.25人),中国・四国(125.64人)の順で,近畿(86.78人)は,昨年流行したためか本年はやや少ない。北海道(38.36人)は60年に流行があり,その後に低下して本年は少なかった。都道府県別では福岡県が最も多く,累積定点当たり449.42人で,福岡市403.38人,北九州市574.70人であった。次いで徳島県(417.27人),埼玉県(347.59人),青森県(316.93人),群馬県(316.68人),千葉県(309.58人)が全国平均の2倍以上の発生を示している。昨年の流行が最大であった神奈川県(61年年間報告数定点当たり128.07人,全国平均41.55人)は本年も197.75人と全国平均を上回る発生を示した。沖縄県(7.27人)は流行がなく,宮崎県(42.11人),奈良県(43.89人),島根県(44.75人),神戸市(30.19人)が特に少ない。注目すべき点は,病院定点からの1月から6月までの月報で,脳炎108例中,風しんによるものが5月の10例をピークとして計24例認められたことである。26週までの累積による罹患年齢は5〜9歳が46.3%を占め,次いで4歳の13.6%であるが,10〜14歳12.1%,15歳以上7.5%と比較的年齢の高いものの罹患が多い。
伝染性紅斑:前回の流行は全国サーベイランス開始前であるが,当時に各県等でそれぞれ行っていたサーベイランスの情報をみると,54年頃から増加傾向がみられ,55年にかなりの流行となったが,夏から秋にいったん下った後,年末から急増し,56年春をピークとする全国流行となったことが認められる。56年の流行は7月から8月にかけて急速に治まり,その後は60年まで少数の発生にとどまっていた。56年7月から始まった全国サーベイランスは,ちょうど流行の下降期を把握している。その後の発生も11月頃から増加し始め,翌年に続き,発生の多い時期が夏まで続いて7月〜8月に低下するというパターンが毎年みられている。今回の流行は,60年11月から増加し始め,61年の7月まで急速な上昇カーブを示し,7月末〜8月に急に低下して10月に最低となった後,また11月から急増し,本年の流行につながったものである。これまでの発生パターンからみれば,この流行も7月末〜8月に低下すると考えられる。本年第26週までの累積報告数は76,315人,定点当たり32.04人で,61年は定点当たり年間報告数22.07人であった。非流行期の発生が定点当たり年間報告数58年5.15人,59年4.08人,60年5.17人であるのに比べると,本年前半の発生数はその6倍以上に達している。
本年の発生をブロック別にみると,近畿は累積定点当たり40.63人と最も多く,次いで中国・四国40.58人,東海・北陸37.04人,九州・沖縄31.66人,東北27.50人,関東甲信越24.42人,北海道17.45人の順で,西日本に多い。昨年の流行は東京周辺が多く,関東甲信越の年間報告数は定点当たり31.78人に達したが,その影響の関係から本年の発生は昨年を下回った。県別では富山県が累積定点当たり89.62人と最も多く,福岡県は75.85人で,福岡市は115.08人,北九州市70.50人と大きな流行を示しており,次いで島根県66.58人が全国平均の2倍以上の発生を示した。これに対して,山梨県は3.55人,沖縄県は5.42人で,この2県だけは流行がみられなかった。罹患年齢は5〜9歳54.8%,10〜14歳15.1%と,この2群で70%を占めているが,昨年までに比べて10歳以上の罹患が増加している。
ウイルス肝炎:
月別:
(1)A型肝炎:3月をピークとして2〜4月に発生の増加がみられた。従来の季節変動と同じであり,流行発生はなかったといえる。(2)B型肝炎:4月以降発生の減少がみられる。AIDS騒動との関係も考えられる。(3)その他の肝炎:季節的変動はほとんどない。
性別:
男女比はA型肝炎で1,B型肝炎で2,その他の肝炎で1.4で従来の報告と大差がない。B型肝炎で男性が多いのはSTDとしての感染経路が関係している可能性もある。
年齢別:
(1)A型肝炎:40歳代まで各decadeともほぼ同じ発生頻度で50歳以降減少がみられる。(2)B型肝炎:30歳代に発生のピークがみられ,従来の報告と同様である。(3)その他の肝炎:30歳以降に発生の増加がみられるが,9歳以下,特に4歳以下で発生例の多いことは注目される(新生児肝炎が含まれていると考えられる)。
地域別:報告施設により発生数に大きな差があるので,地域別の発生頻度については来年度以降に議論した方が良いと考えられる。
性行為感染症:サーベイランス開始以来6ヶ月間の全国定点からの報告件数の推移を前回の第1四半期報同様,診療日数調整の上,1月を100とした指数でみると以下のとおりである。
1〜3月までの指数値が前報と異なるのは,北海道のある定点より,1月にさかのぼって報告件数の訂正があったためである。淋病様疾患と陰部クラミジア感染症は3月以降,尖圭コンジロームは4月以降,陰部ヘルペスは終始減少,トリコモナス症は著しい変動なしに推移した。また,陰部ヘルペス,トリコモナス症を除いて5月に限るわずかながらの上昇がみられた。休日が連続したための影響とも考えられようが,5月の件数が4月より多いのは,割合山の大きい陰部クラミジア感染症でみても,47都道府県中21(44.7%),10指定都市中3と大きく半数を割っている。1〜6月の上半期を合計して,淋病様疾患と陰部クラミジア感染症の比は1:0.80となり,陰部クラミジア感染症の相対比は増加してきた(図)が,都道府県間の差は依然きわめて大きい。陰部クラミジア感染症の件数が第2四半期において80件以上あり,淋病様疾患の1.2倍を越える7県とその倍率は次のとおりである:山形5.6,長野2.7,宮崎2.5,新潟2.5,鹿児島2.0,群馬1.6,徳島1.3。一方,淋病様疾患に比し,著しく件数の少ない県は沖縄県の68件対2件,岡山県の42件対3件である。定点の選定基準の見直しを含め,検査方法の標準化がなるべく速やかに達成されるよう望まれる。トリコモナス症の推移については婦人科定点の寄与割合を考慮しないで一律に論ずることはできないので,その点の整備を進める必要がある。
結核・感染症サーベイランス 情報解析小委員会
表.ウイルス肝炎(月別)
表.ウイルス肝炎(性別)
表.ウイルス肝炎(年齢別)
表.性行為感染症(月別)
1987年上半期件数百分比
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