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RSウイルス(RSV)は毎年冬期に必ず流行する小児にとっては最も重要な呼吸器ウイルスである。
昨シーズンのRSV感染も1986年10月から1987年4月にかけて流行した。川崎市立川崎病院小児科と済生会神奈川県病院小児科に受診した外来および入院患児のnasopharyngeal secretion(NPS)を採取し,RSVの分離を試みた。同時にABBOTT社のEIA(Enzyme Immunoassay)法によるRSV抗原検出用キットも併用した。EIA陽性,組織培養(TC)陰性検体にはblocking試験も行った。87年2月以降は,デンカ生研のFITCラベル抗RSV抗体を用い,NPSの沈渣中の脱落細胞より蛍光抗体(IF)直接法でRSV抗原を検出した。分離を行えなかった入院例は,CF抗体価の4倍以上の変動により感染を証明した。
期間中86例のRSV感染例を認めたが,全下気道感染入院例との関係を月別にみたのが図1である。10月から12月にかけてのRSV感染の増加とともに,下気道感染入院例も増加した。RSV感染のピークは2月に認められた。
86例のRSV感染を診断方法別にA群(CF抗体価の変動のみで診断),B群(TCおよびEIAを併用して診断),C群(TC,EIAおよびIFを併用して診断)の3群に分けると(表1),A群24例,B群41例,C群21例となった。それぞれの平均年齢は3歳1ヵ月,1歳1ヵ月,1歳3ヵ月であり,A群の平均年齢が他の2群より高かった。一方,B群,C群でCF抗体価測定を併用した症例中,有意の変動を認めたものはそれぞれ35%および33%にすぎなかった。
表2にまとめたように,B群でTC陰性でEIAのみで診断できた例は7例(17%),C群では5例(24%)であった。また,IFに関し,TC,EIAともに陽性であるが,IFが陰性の1例,EIAのみ陽性で,TC,IFともに陰性の1例,逆にTC,EIAが陰性でIFのみ陽性が1例あった。
また,14例(16%)では他の病原因子が重複感染しており,その内訳を表3にまとめた。
RSVには1歳以下の乳児の約70%が最初のRSV流行期に罹患するといわれている。今回の成績でもわかるように,1歳以下の乳児にはCF反応による血清学的診断には限界がある。また,TCのみでは見逃す例が少なくないことがうかがわれ,今後RSV感染の実態をとらえ,その多様性を見ていくには,EIA法,IF法の併用が必要と思われる。
済生会神奈川県病院小児科 由井 郁子 村瀬 雄二
川崎市川崎病院小児科 武内 可尚 渡辺 淳
慶應義塾大学小児科学教室 小佐野 満
図1.全下気道感染入院例とRSウイルス感染例の月別分布
表1.RSウイルス感染症の診断方法
表2.TC,EIA,IF法および血清学的診断法の比較
表3.RSウイルスと他の病原因子の重複感染例
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