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我が国の日本脳炎サーベイランスでは,患者発生報告,肥育豚の感染抗体調査(ブタ情報)およびヒトの抗体調査が実施されている。また地域によっては蚊またはブタからの日本脳炎ウイルスに(JEV)の分離によってウイルスの散布が追跡されている。本報告は最近4年間の調査成績の要約である。
近年我が国では日本脳炎患者発生数が減少し(表1),1972年以降の報告患者数は2桁以下となった。1978,79年に再び増加の傾向がみられたがその後は小康状態を保っている。1984年以降3年間の合計患者報告数は92例,死亡16例,致死率は17.4%である。性比は男53:女39で,やや男性が多い。患者は九州地方が圧倒的に多く44例(47.8%),ついで近畿地区の21例(22.8%)であった(表2)。さらに患者発生は特定の県に限定される傾向がみられ
(本号19ページ・1986年日本脳炎確認患者参照),
これらの地域では他の地域よりも自然界で日本脳炎ウイルスが散布するために好適な条件が整っていると考えられる。患者の多くは成人で,30歳以上が82.6%,50歳以上が59.8%を占める。一方,5歳以下が12例(13.0%)含まれ,このなかには0歳児2例(3ヵ月および11ヵ月児)が報告された(表3)。
ブタ情報は我が国独自のサーベイランス方式である。日本ではブタがJEVの増幅動物なので,ブタにおけるJEV抗体の出現をみることによってその地域のウイルスの動きを知ることができる。この調査は全国の地方衛生研究所が担当している。
このブタ情報によれば,JEVの感染は毎年6〜7月に沖縄から始まり,すみやかに他の地域に拡大する。近年ウイルスの散布が最も広範であったのは1985年で,この年は10月までに,北海道,岩手を除く日本全土で,検査されたブタの50%以上がJEVに感染し,流行終了後のウイルス散布図は1966年の大流行時とほとんど同じになった。しかし,この年の患者数39名は1966年の1/50であった。1987年は再び比較的広範なウイルス散布がみられている(図1)が,患者発生数はまだ集計が完了していない。
病原体情報のウイルス分離報告では,1981年以降現在までにJEV分離が合計553例報告された。分離検体はブタ血液(50例)および蚊で(503例)である。大分県の1986年6月の3例以外はすべて7〜9月に分離され,この時期JEVがブタ−蚊のサイクルで散布していることを直接証明している。1981年以降,JEV分離を報告したのは9地研(表4)で,このうちブタからの分離は東京,三重,福岡および大分から報告された。
ヒトの抗体調査結果によれば,患者およびブタ情報にみられるウイルス散布状況を反映して,西日本の各県で抗体保有率が高い(図2)。日本では20〜30歳の抗体保有率がこの前後の年齢群よりも低く,これが新生児感染をひきおこす可能性が指摘されている。
表1.日本脳炎患者確定数 1965年〜1986年(日本脳炎患者個人票による検査室診断例および定型的死亡例)
表2.日本脳炎確定患者発生地域 1984年〜1986年
表3.日本脳炎確定患者年齢分布 1984年〜1986年
表4.年次別・報告機関別日本脳炎ウイルス検出状況 1981〜1987年
図1.1987年夏のブタの日本脳炎感染
図2.県別日本脳炎ウイルス中和抗体保有率の比較 1986年
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