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Vol.9 (1988/1[095])

<国内情報>
今季インフルエンザウイルス分離状況


東京都

 東京都では,11月2日に今冬季としては最初のインフルエンザ様疾患による学級閉鎖が報告され,12月5日までに発生した6集団中4集団について分離試験(ふ化鶏卵およびMDCK細胞)と抗体検査を実施した。

 このうち,板橋区立北野小学校の罹患児童のうがい液から2 株のA(H3)型インフルエンザウイルスを分離同定した。

 同小学校では11月28日に,5年生の2クラス(各40名在籍)での欠席者が22名,9名にのぼった。さらに2日後には,5年生1クラスと6年生1クラス,合計4クラスに学級閉鎖が広がった。このため,所轄の板橋区立赤塚保健所が罹患児童5名より,うがい水と血液を採取した。

 分離試験では,2検体がふ化鶏卵培養初代で陽性となった。他の3検体は,ふ化鶏卵,MDCKとも継代中である。分離されたうちの1株,A/東京/1276/87のニワトリ抗血清に対するHI価は表の通りである。速断はできないが,過去流行のA(H3)型3株抗原と比較しても,ほぼ同程度の反応を示している。なお,他の3集団ではふ化鶏卵,MDCKとも分離されていない。

 抗体検査についてはペア血清のそろった3集団について,インフルエンザウイルス,アデノウイルスに対してはCFを,パラインフルエンザウイルスに対してはHIを実施した。北野小学校児童5名の急性期血清のCF抗体価は,インフルエンザウイルスA型に対して全員8倍以下であったが,回復期には,うち3名が8倍へと上昇し,他の2名はそれぞれ16倍,32倍へと有意上昇していた。したがって,同小の集団では分離試験の結果と合わせて,合計3名に同ウイルスの感染があったと判定された。一方,北野小学校以外の2集団については抗体上昇はみられなかった。

北野小学校の罹患児童5名のワクチン接種歴は本年2回接種者2名中1名は分離陽性かつCF抗体の有意上昇,未接種者3名中1名は分離陽性,1名は抗体の有意上昇をみている。



東京都立衛生研究所 中村清純 山崎 清



大阪府

 本年4,5月,高知,長崎,鹿児島と続いてインフルエンザB型ウイルスの変異株が分離され,急遽ワクチン株にB/長崎/1/87が追加,秋以後の動きについて注目されているなかで,大阪府下では10月下旬より2株のインフルエンザA香港型ウイルスが分離されているので以下に報告する。

 分離材料は,いずれも大阪府下高槻市内の病院に来院した患者より採取されたものである。なお,血清は採取されていない。

 例1:6歳 女 幼稚園児 ワクチン歴不明

  10月25日 熱発

  10月28日 検体採取(咽頭うがい液,拭い液)

       発熱(38.5℃)

       家族内感染者あり(母,姉)

  10月28日 当研究所に検体受付,分離

   コードa@A/大阪/156/87(H3)

         ;うがい液

        A/大阪/157/87(H3)

         ;拭い液

 例2:14歳 女 中学生 ワクチン歴なし

  11月28日 検体採取(咽頭うがい液)

       発熱(38.5℃),上気道炎

       流行(地域)

       12月1日 当初に検体受付,分離

        コードa@A/大阪/184/87(H3)

 なお,分離には例1のうがい液のみMDCK細胞,ふ化鶏卵を併用,他はMDCK細胞を用いた。細胞系はそれぞれ,2代,3代で同定されたが,卵系は4代で同定されている。

 また,そのHA抗原性は表1の交差HI反応にみられるように,1985年秋口から流行した株とほぼ同じ抗原性を示し,ワクチン株A/福岡/C29/85とも近いと考えられる。これは例1について,予研による同定試験でも確認されている。

 その他の流行状況として,同時期の11月中旬から12月初旬,隣接市で学級閉鎖があり,検体採取,分離作業を進めているが,現在ウイルスは分離されていない。

今後,冬休み明け1月,このインフルエンザA香港型ウイルスがいかなる動きを示すか,B型の動向も含めて観察して行きたい。



大阪府立公衆衛生研究所 前田章子 加瀬哲男 峯川好一



京都府

 京都府中郡大宮町の大宮第一小学校で,昭和62年11月17日に,発熱(38.0℃前後),咳,喉の痛み,頭痛等を主症状とするインフルエンザ様疾患の集団発生があった。調査の結果,今年度初めて京都府のインフルエンザ集団発生を確認した。全校児童の欠席状況は表1のごとくである。6年生の1クラスが11月17日から19日までの3日間学級閉鎖となった。このクラスの有症者5名の咽頭ぬぐい液のMDCK細胞培養により,うち1名からインフルエンザウイルスA香港(H3N2)型を1株分離した。このウイルスの性状は表2の通りである。有症者5名の赤血球凝集抑制(HI)試験による血清診断で陽性と診断された2名(インフルエンザウイルス検出陽性者1名を含む)すべてがA香港型に反応し,他の型とは反応しなかった(表3)。これらのことから今回のインフルエンザ集団発生の病原はインフルエンザウイルスA香港型と判断した。ちなみに,大宮第一小学校のインフルエンザの接種状況は表4のごとくである。

京都府の結核・感染症サーベイランス情報によると定点当たりのインフルエンザ様疾患の報告数が11月から12月中旬にかけてわずかずつではあるが確実に増加の傾向にある。今年はインフルエンザワクチンの接種率がやや定価の傾向にあると聞く。これからインフルエンザの動向を見守る必要があると考える。



京都府衛生公害研究所  藤田宣哉 森垣忠啓 若城謙二 石崎 徹



神戸市

 神戸市では今季インフルエンザの集団発生はいまだなく,各検査定点におけるカゼ発散例からのウイルス分離を行っている。

 11月7日に発症し,高熱(39.5℃,2日)を発し,頭痛,悪心,著名な関節痛を伴った主婦より,MDCK細胞で11月26日インフルエンザウイルスを分離した。

 分離株はB/長崎/1/87血清に対し1:128,抗B/長崎/3/87に対し1:256,抗B/シンガポール/222,/79に対し1:64のHI価を示し,抗A/山形/120/86,抗A/福岡/C29/85には1:16以下で,B型インフルエンザウイルスと同定された。

 その後,12月20日時点で他にはウイルス分離はされていない。



神戸市環境保健研究所



横浜市

 横浜市内北東部ウイルス定点(鶴見区)で12月21日採取した咽頭ぬぐい液7例中1例から,インフルエンザA香港型ウイルスを分離した。患者は5歳男児で,12月20日発病,今回検出されたA/横浜/39/87株は,1985年の流行株A/横浜/2/85に抗原的に類似していた(表)。



横浜市衛生研究所



東京都表.1987年12月に東京で分離されたインフルエンザウイルスA(H3)型のHI抗原分析
大阪府表1.1987年分離インフルエンザA香港型ウイルスの交差HI試験−大阪府
京都府表1.大宮第一小学校学童の欠席状況
京都府表2.分離株の性状
京都府表3.血清診断の成績
京都府表4.大宮第一小学校のインフルエンザ予防接種実施状況
横浜市表.A/横浜/39/87の抗原性





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