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1987年の腸チフス発生数は,患者・保菌者あわせて151例,パラチフスA27例で,すべて散発例であった。ここ数年本疾患の発生数は減少を続けていたが,年間発生数が200 を割ったのは初めてである。これには集団発生の減少が大きく影響しているとみられ,保菌者の発見とその対策を主眼としてきた20年にわたるわが国の腸チフスサーベイランスの成果を示すものといえよう。
1981〜1987年のチフス菌,パラチフスA菌の月別検出状況を図1に示した。わが国の腸チフス発生の特徴であった冬季多発傾向が失われているのがよくわかる。輸入例は腸チフス41例(27%),パラチフスA12例(44%)で,国内発生が減少したために輸入例の割合はいずれも前年を上回った。
腸チフスの発生を性別でみると,患者は男性に多く女性の約2倍,保菌者は女性に多く男性の約3倍であった。年齢分布では男女とも患者は青壮年層に,保菌者は中高年層に多発した。一方,パラチフスでは患者保菌者とも男性の多発がやや多かった。(表1)。
腸チフス,パラチフス患者の診定はそのほとんどが細菌学的になされており,最近学的検査で診定された者は前者は120例中105例,後者は27例中21例で88%及び78%を占めている。また,分離された菌の93〜96%がファージ型別に供試された(表2)。過去20年間の腸チフス患者診定方法と分離菌のファージ型別供試率の変遷をみると最近学的診断の依存度が高いのがよくわかる(図2,3)。表3に発病から診定までに要した期間を診定方法別に示した。診定期間の幾何平均は腸チフス、パラチフスとも14日であった。しかし,診定までに1ヵ月以上を要した例が約1割もあるのは今後の課題であろう。
1987年に高頻度に検出されたチフス菌のファージ型はD2(16.6%),E1(12.6%),M1(11.9%),DVS(10.6%)などで例年と大差はなかったが,本年M4型が初めて輸入例から分離された。また,海外型のE2,T,28が昨年に引き続き検出された(表4)。パラチフスA菌のファージ型の中で,2,3,5型はすべて海外由来であった(表4)。
分離株のすべてについて薬剤感受性試験を実施した結果,ABPC・KM(Vi−)およびABPC(ファージ型50)耐性のチフス菌2株が検出された。いずれも国内発生例から分離されたものである。
図1.月別チフス菌・パラチフスA菌検出状況 1981〜1987年(地研・保健所集計)
表1.腸チフス・パラチフス患者および保菌者の性・年齢階層別分布(1987年1月〜12月)
表2.腸チフス・パラチフスの診定方法と分離株のファージ型別供試状況(1987年)
図2.腸チフス患者診定法の年次推移
図3.ファージ型別供試率の年次推移
表3.腸チフス・パラチフスの発病から診定までの期間(1987年)
表4.チフス菌のファージ型別分布(1987年)
表5.パラチフスA菌のファージ型分布(1987年)
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