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感染症サーベイランス情報の解析を行うにあたって,地域別の患者発生を比較することがしばしば必要となる。この際一般に,報告患者数を報告定点数で除した「一定点あたり」という表現を用いているが,これは各定点がほぼ同一の患者数を毎日診察しており,かつ全定点が毎週欠かさずに患者発生報告を行うという前提に立っている。現実問題としては,各定点の週間の診療患者数は異なっているので,この「一定点あたり」という計算方法は,一地域における週ごとの患者発生の増減の指標にはなるが,複数の地域を比較することはできない。そこで我々は感染症サーベイランスにおける患者報告数を,「人口10万人あたり」に換算する数式を考案したので報告する。
我々は突発性発しんの患者報告数が年間を通じて極めて安定していることに着目した(図1)。一方,2歳の乳幼児がこれまでに突発性発しんに罹患した率は大阪小児科医会の調査で60%であることが判った。また,この疾患の年齢分布は,0歳児が94.5%を占めている。人口10万人あたりの罹患率は以下の数式で簡単に求められる。百日せきで実際に計算式を示すと以下のごとくなる。
人口10万人あたりの患者発生数
=(百日せき患者報告数(年)×定数)/(人口/10万人)
定数
=(年間出生数×0.6)/(年間突発性発しん報告件数)
この「定数」はもちろん地域ごとに異なっているが,年ごとでは出生人口が毎年減少していてもほとんど変わらない。ちなみに大阪市における定数は昭和60年が13.8、昭和61年は15.2、昭和62年は11.0である。昭和62年の定数が低くなっているのは,それまでは患者の住所別に集計していたのが,この年から定点の医療機関の所在地別にと集計方法が変わったためである。
この定数を水痘の患者報告数で算定する方法もあるが,水痘の場合は年間の患者報告数の変動が激しいので,不正確になる。また,水痘罹患者のうちで15歳以上の占める率は,1.0%であるが,不顕性感染の正確な数字を求めることは困難である。
この突発性発しんの患者発生の特性を応用した人口10万人あたりの患者発生数を計算することにより,大阪府において百日せきワクチンを3〜6ヵ月から接種している地域は,2歳から接種している地域の4分の1の百日せきの患者発生であることが証明できた(図2)。また,この方法を用いて府県単位の患者発生を正確に比較することも可能になった。
しかし,この方法でもっと高い年齢層に好発する疾患,たとえばインフルエンザなどにあてはめるときは,さらに多少の工夫が必要になると思われる。今後の検討に待ちたい。
大阪感染症サーベイランス情報解析委員会 北浦敏行 大国英和 原田七寛 木村輝男
図1.水痘・突発性発しん報告数(1定点あたり)
図2.百日せきの地域別患者発生状況(人口10万あたり)
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