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(感染症週報:昭和63年第1週〜第13週 感染症月報:昭和63年1月〜3月)
昭和63年5月20日
第1四半期が終了した時点での小委員会の解析評価を報告する。
小児科・内科定点
1.概況:第1〜13週の主要な動きは,風しんの流行が西日本に強まりつつあること,インフルエンザ様疾患の流行が,第10週をピークとして起こったことである。麻しんは全国平均では昨年よりは少ないが,東日本では今期を通じて徐々に増加した。感染性胃腸炎,乳児嘔吐下痢症は昨年末の発生は例年より少なく,今期に入って,第5週にピークを作る発生となった。
2.風しん:昨年の全国流行は第22週がピーク(定点当たり10.71人)で,第43週に最低(定点当たり0.13人)となったが,以後,徐々に増加:本年に入って,2月から3月に急増しつつある。増加の程度は昨年より低く,第13週の報告数は定点当たり2.50人,第1週から13週までの累積報告数は定点当たり16.65人で, 昨年同期の, それぞれ8.20人,43.09人に比べると約3分の1である。
本年度の発生状況はかなり地域差があり,それぞれの地域のこれからの発生程度を推測させる。ブロック別には九州・沖縄がいちばん多く,累積報告数35.66人で,次いで中国・四国30.09人,東海・北陸25.60人, 東北19.74人,北海道12.38人の順で,近畿8.70人と関東甲信越5.30人が少ない。多い県は佐賀県が累積報告定点当たり81.94人ともっとも高く,岡山県67.43人,山口県61.75人,福岡市55.92人,長崎県55.15人,大分県51.67人,富山県49.10人,岐阜県44.71人は,昨年同期までの全国平均累積報告数を越えている。
一方,流行のほとんどみられない地域もあり,東京周辺,京都,大阪周辺に集中している。累積報告数5人以下の地域は,群馬県1.22人,埼玉県2.42人,千葉県1.51人,東京都1.46人,神奈川県1.72人,横浜市2.56人,川崎市1.26人,近畿では滋賀県4.09人,京都府3.71人,京都市1.27人,大阪府3.27人,大阪市0.70人,奈良県2.67人で,これ以外では,石川県2.00人,山梨県4.47人,鳥取県1.00人,徳島県0.40人,北九州市3.00人が少ない。
3.麻しん:麻しんは,昭和59年の流行の後,60年に最低となったが,61年,62年と少しずつ増加した。今年は62年ほどではないが,61年に近い形で春に向かって増加している。本年のはじめは全国平均定点当たり0.3人程度であったが, 第7週頃から増え始め,第13週には0.6人となった。この数字は小さいが,かなりの流行となっている地域もみられる。今期の発生を定点当たり累積報告数でみると,昨年同期の8.36人に対して本年は4.98人で, 約60%の発生である。
ブロック別の累積報告数では東北が12.76人,関東甲信越7.16人,北海道7.26人,九州・沖縄4.16人,東海・北陸3.16人,中国・四国2.57人,近畿1.06人で,関東以北が主な流行地で,九州の一部で流行していることが分かる。北海道,東北6県,関東地方では群馬県を除いた県で,このほかに静岡,長野で流行がみられる。九州では大分,宮崎が多く,鹿児島,沖縄でも増えている。これ以外では広島市が多いくらいである。
累積報告数でもっとも多いのは埼玉県20.40人,宮崎県20.82人で,福島県15.26人,秋田県11.29人,千葉県9.97人,山形県9.22人,栃木県8.98人,青森県8.07人,静岡県8.91人,大分県8.26人,宮崎県8.46人が多い。これに対して少ないのは札幌市,新潟,石川,滋賀,京都,大阪,和歌山,熊本,北九州市で,累積報告数0.5人以下である。
4.インフルエンザ様疾患:本年は第4週に定点当たり2.19人と上がり始め,第10週29.78人とピークを作り,第13週には6.54人と低下してきた。昨年度からインフルエンザ様疾患は全国的なサーベイランス集計が行われるようになった。昨年の流行は第4週に18.79人のピークを作り,第13週までの累積報告数は定点当たり90.85人で小流行であったが,今年は13週までの累積報告数は161.13人で,昨年の約1.7倍の発生であった。インフルエンザ様疾患発生報告では,第11週までの集計で患者数64万,学級内閉鎖11,151となっており,これから考えると,本年の流行は小規模のものであったといえよう。しかし,地域によってはピーク時の定点当たり50人を越え,中規模なみの発生を示したところもある。
ブロック別にみると,関東甲信越,近畿,九州での上がり始めが早く,近畿,九州では第8週,関東甲信越は9週にピークとなった。発生数の多かったのは東海・北陸で,ピーク時の定点当たり50.15人,13週までの累積報告数205.51人となった。
今シーズンの流行ウイルス型は,昨年5月頃にB型が分離されたことから,B型主力ということが考えられたが,AH3N2(香港型)とB型の混合流行となった。病原微生物検出情報では,これまでにAH3は433株,B型は555株が分離されている(事務局註:4月20日現在報告数)。
5.その他の疾病:水痘は本年は少ない年と予測されている。昨年末,第51週に定点当たり2.70人と平年なみであったが,本年第12週には2.02人,第13週2.10人と,流行期にしては発生は少ない。
流行性耳下腺炎は2〜4年の経過で大きく変動する。前回の流行は昭和60年で,昨年は最低の年であったので,いつから上昇し始めるのか注目されている。昨年は平均,週当たり定点当たり0.5人程度(0.34〜0.66人)であったが少しずつ上昇して本年13週には0.75人となった。まだ流行期とはいえないが,これからの動きが警戒される。
異型肺炎は4年ごとの流行で,本年は流行年といわれている。昨年は週当たり定点当たり0.1人程度で経過していたが, 年末にやや増加して第51週には0.36人,本年に入っても第4週0.33人で,これからの増加が警戒されたが,第13週には0.16人と下がった。これから,いつ頃から上昇に転じるのか警戒したい。
感染性胃腸炎,乳児嘔吐下痢症は多くは12月にピークを作るが,年によっては1,2月にズレることがある。昨年はそれぞれ,第51週に6.64人,2.66人のピークを作ったが,これは例年よりは低い数字で,正月休みに一時低下したが,本年に入って第5週に6.92人,3.42人とピークを作っている。
手足口病は,昨年は夏のピークは小さく(定点当たり0.98人),秋になって増加し,第45週に1.91人のピークを作った。秋の増加は西日本,特に九州,中国・四国に多かった。この傾向は本年初めまで持ち越され,第1週0.62人と,例年より数倍高い数字が示されていたが,次第に低下し,第13週には0.16人と,例年なみに近い数字に戻った。
病院定点
MCLS,感染性髄膜炎,濃脊髄炎は,第1四半期では特別の動きはなく,発生は少なかった。
眼科定点
全国平均では毎年32週頃にEKC多発のピークがあるが,地域による発生のズレが年によって若干の変化をもって示されるので,各地方によってその多発のピークに注意しておく必要があろう。これに対してPCFは,そのピークが全国的にも28週から43週の間のEKCより幅広い期間に多発を見ており,その立ち上がりを早くキャッチする必要がある。今回のサーベイランス情報によると,九州・沖縄地方においてはEKCの多発傾向が見られ,例年より早い多発の可能性が全国的にも予測される。AHCの発生は現在のところ少ないが,この疾患が臨床的に強く疑われた症例では,病因検索としての病原体の分離と組血清の中和反応が望まれる。
病原情報においては,EKCの起因病原体アデノ4,8,19,37に較べて,PCFのアデノ3が圧倒的に多いので,眼科定点におけるEKC患者からの検体の提供が望まれる。
性行為感染症
昭和63年1月から3月まての全国1定点医療機関当たりの患者発生数を疾患別に前年のグラフ上にプロットすると図1のごとくである。陰部ヘルペスとトリコモナス症以外の各疾患にみられた前年の1月から2月に向けての異常なまでの激減は今年みみられない。淋病様疾患に著しく,陰部クラミジア症にも多少みられる1月の強ふくみの数値は届出統計の淋病でもみられる12月に端を発する例年の季節変動と解されよう。
なお,62年末559の定点数は63年1月から578となったが,定点当たりの人口(昭和61年推計)を都道府県別にみると,最大119万6千(静岡),最小11万5千(石川),平均20万9千と依然,範囲幅は非常に大きい。
結核・感染症サーベイランス
情報解析小委員会
表
図1.全国一定点医療機関当たり患者発生数の推移
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