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Vol.9 (1988/7[101])

<特集>
サルモネラ


 病原微生物検出情報で取り扱う病原菌のうち,地研・保健所において最も多く検出されるのはサルモネラで,全報告数の20〜25%を占めている。

 1987年食中毒発生状況の速報によると(厚生省,4月25日付),サルモネラ食中毒は事件数,患者数とも3位であった(表1)。

 1982〜1986年の病原体情報月別検出数によると,地研・保健所,医療機関ともにサルモネラは7月にピークをもつ夏季多発のパターンを繰り返している(図1)。地研・保健所報告による検出総数は1982年の4,932から1986年の3,367まで減少傾向をしめしたが,医療機関報告では1982年の1,405から1986年の1,701まで大きな変動はみられなかった。

 サルモネラの分離が夏に増加するのは本菌による食中毒の発生が夏に集中するためである。表2にわが国におけるサルモネラの集団発生件数を規模別,月別に示した。過去6年間のわが国における月別発生件数は,7月61件(24%),8月43件(17%),9月44件(18%)で,この3ヵ月間の発生が総件数251の59%を占めている。1986年および1987年は冬季の集団発生がやや多かった。

 わが国で分離された血清型上位15を表3に示した。この数年,検出数が1位および2位のS.typhimurium, S. litchfieldは集団発生の原因菌の中でも例年上位を占める血清型である。海外輸入例の順位は国内分離の順位と必ずしも一致しない。したがって,上位での輸入例の比率も低い。一方,10位以下の血清型は散発例が多く,輸入例の率も高くなる。

 WHOのサルモネラセンター情報(1985年)によると,S.typhimuriumは世界38ヵ国中20カ国で1位,S.enteritidisは10ヵ国で1位,S.typhiは5ヵ国で1位であった。なお,日本以外で上位15にS.litchfieldを報告しているのはルクセンブルグのみであり,同血清型が毎年高率に分離されるのはわが国の特徴といえよう。

 サルモネラ感染症の臨床症状については,感染性腸炎研究会によって入院患者の例が収集されている。この資料によると,1987年に13の都市立伝染病院に入院したサルモネラ患者114例(男性70例,女性44例)について,年齢分布は,14歳以下が58例(50.9%),20〜29歳23例(20%)で,高齢者の率は低かった(表4)。同入院患者の症状では腹痛が高率(86.3%)にみられること,高熱(38℃以上)の比率が高いこと(85.2%),便回数が多いこと(1日平均12.3回),改善病日が長いこと(平均下熱4.9日)などが他の腸管感染症に比べて特徴的である(表5)。

 1987年に分離されたサルモネラの43.5%がいずれかの抗生剤耐性を示し,その中でCPとTCの両方に耐性の株の比率が46.8%と高かった。



表1.1987年の食中毒発生状況
図1.サルモネラの年別月別検出数 1982〜1986年
表2.サルモネラの集団発生
表3.サルモネラ Top 15血清型年次別比較
表4.サルモネラ患者(腸チフス・パラチフスを除く)の年齢、性の分布 1987年都市立伝染病院入院症例(感染性腸炎研究会資料より)
表5.サルモネラ患者(腸チフス、パラチフスを除く)の症状、1987年 都市立伝染病院入院症例(感染性腸炎研究会資料より)





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