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Vol.9 (1988/6[100])

<国内情報>
感染性腸炎研究会報告 輸入感染性腸炎について 1987年


 1987年1月から12月まで,都市立14伝染病院に収容された各種感染性腸炎患者のうち,調査票に基づき国外感染例と考えられるものを抽出して,輸入感染性腸炎の検討を行った。

 1987年度入院患者総数1,180人から複数菌感染を含め1,036株を分離し,そのうち国外感染,輸入例と思われるものは514株で,全体の約半数の49.6%を占めた。その内訳は,赤痢菌において輸入株が70.4%を占め,以下輸入例の頻度の高いものとして,パラチフスAが81.8%,コレラが81.3%,病原大腸菌群が68.3%,原虫疾患であるランブル鞭毛虫は検出した20例全てが輸入例であった。赤痢菌群においてはA,C,D群において輸入例の頻度が高く,病原大腸菌群のうちでは毒素原性大腸菌が検出20株中,輸入例が19株だった。その他の輸入株37株の主要菌種はAeromonas hydrophilaが17株,Plesiomonas shigelloidesが15株で,Aeromonasは国内検出株も17株あり,輸入頻度50%だったが,Plesiomonasは全検出16株中の15株と輸入例が大部分だった(表1)。

 表2は分離菌を推定感染国別に分けたもので,インド・ネパール・パキスタンの組合せが全分離菌の36.9%を占め,過去5年と同じく1987年度においても推定感染国の1位だった。2,3,4位のタイ,インドネシア,フィリピンは入れ替わりはあるもののここ数年と同じ傾向である。1987年度の輸入例の割合49.6%は過去5年と比べても最高となっているが,過去の年間入院患者が1,300から1,500人であったことを考えると,1987年の国内収容患者の低下が輸入例の割合をおし上げた形になっているかと思われる。国別に見て特に特徴的な傾向を見るには至らないが,ランブル鞭毛虫は20例中15例がインド・ネパール・パキスタンからのもので,また,1987年度の輸入コレラ13株中7株はタイからの輸入例だった。

 輸入感染性腸炎の場合,2種以上の病原菌が分離される重複感染が多いことはよく指摘されているところだが,1987年度の混合感染例を見ると(表3),輸入例464例中80例,17.2%が2種以上の混合感染例で,国内例の3.8%に比べやはり高率である。国別に見て先の輸入例の多い上位3ヵ国に2桁以上の例を認めている。国内例においても3種以上分離が3例あるが,この4種分離の菌は腸炎ビブリオ,Vibrio cholerae non O-1,V.fluvialisAeromonasの組合せで,3種分離例の一つは腸炎ビブリオ,V.fluvialisAeromonasで,もう一つはETECとEPEC2種の組合せと,近縁菌が多いのに比べ,輸入例では,インドからの4種はチフス菌,赤痢菌D群,Campylobacter ,ランブル鞭毛虫と多彩な組合せが見られた。

 図1に罹患患者の年齢分布と入院月をまとめた。輸入例においては20歳台,30歳台がピークを作っている。一方,国内例は半数弱が14歳までで占められている。図の下段は患者の入院月別分布で,入院例の増加は3,4月と8,9月に小さな2つの山を形作っている。特定の菌種と季節性の相関は輸入例では認めていない。国内例では腸炎ビブリオが6月から10月に集中しているが,この腸炎ビブリオが輸入例では1月,3月にも検出されている。

 次に菌種別の症状の輸入例,国内例の比較を述べるが,全体的に見て輸入例の方が軽いことが見て取れる。特に血便は赤痢,腸炎ビブリオ,Campylobacterで軽くなっている(表4)。

 症状の経過では,輸入例のCampylobacterの下熱が速やかなのは先の症状の体温上昇があまりないのと関連すると思われるが,その他の経過においては国内例に比し,輸入例が同等かやや遷延する傾向が認められる(表5)。

 最後に薬剤耐性についての検討だが,表6に記した5剤のいずれか1剤,もしくはそれ以上に耐性のものの頻度を輸入株と国内株で比べると,おおむね輸入株の方が耐性頻度が低く,特にSalmonella群では顕著となっている。

 以上,感染性腸炎研究会の1987年の資料より,国外感染と思われる感染性腸炎について検討した。なお,本稿の主旨は第62回日本感染症学会総会で発表した。



感染性腸炎研究会(会長:中村林太郎)参加都市立14伝染病院(市立札幌病院南ヶ丘分院,東京都立豊島病院,同駒込病院,同墨東病院,同荏原病院,川崎市立川崎病院,横浜市立万治病院,名古屋市立東市民病院,京都市立病院,大阪市立桃山病院,神戸市立中央市民病院,広島市立舟入病院,北九州市立朝日ヶ丘病院,福岡市立こども病院・感染症センター)に1987年に収容された感染性腸炎症例による。



感染性腸炎研究会(会長 中谷林太郎)
京都市立病院 金 龍起


表1.分離菌中の輸入株の割合
表2.輸入例(412例)から検出された病原体と推定感染国
表3.混合感染の内訳
図1.輸入感染性腸炎の年齢と入院月
表4.感染性腸炎の症状
表5.感染性腸炎の経過
表6.輸入株の耐性頻度





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