HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.9 (1988/10[104])

<国内情報>
麻しん・おたふくかぜ・風しん混合ワクチンの導入等について


当委員会は昭和62年11月以来,麻しん・おたふくかぜ・風しん混合生ワクチン(以下「MMRワクチン」という),ポリオ生ワクチン,沈降精製百日せき・ジフテリア・破傷風混合ワクチン(以下「DPTワクチン」という)の接種方式等について検討を行い,以下のとおり意見をまとめたので報告する。

1.MMRワクチンについて

麻しんは近年患者数の減少をみたとはいえ,なお小規模の流行を繰り返しており,肺炎の合併率も高い。また,脳炎等の重い合併症も麻しん患者1,000名から2,000名に1名程度の頻度で発生している。

風しんは予防接種の実施により15歳から25歳までの年齢層の女子の抗体保有率を90%以上とすることに成功しているが,小児や成人男性を中心に全国的な流行が数年ごとにみられ,時に重い合併症も経験される。

おたふくかぜは毎年流行があり,無菌性髄膜炎等の合併症や難聴などの後遺症を伴うことがある。

このため,麻しんについては,現在70%程度にとどまっている接種率の一層の向上を図るとともに,風しんおよびおたふくかぜについても,ワクチン接種を推進することによってその流行を抑制することが望ましい。

MMRワクチンは効果が高く,副反応も少なく,3種類の予防接種が同時にでき,小児の負担の軽減にもなることから,欧米では1970年代からMMRワクチンの導入を図り,これら3疾患の制圧に効果をあげており,その導入は世界的な趨勢となっている。わが国でも早急に現行の麻しん定期接種時にMMRワクチンを接種できるようにするとともに,その接種を積極的に進めていくべきである。

2.DPTワクチンについて

百日せきは予防接種率の向上に伴って患者数が減少しつつあるが,未接種者,特に0歳から1歳までの幼児に罹患が多く,低年齢児では重症化しやすいので,個別接種の方式により,これまでよりも低年齢からの接種をすすめていくことが望ましい。

また,現行ワクチンの効果についての予防接種研究班(予防接種副反応の軽減化と後遺症患者の社会復帰に関する研究)の抗体獲得率,感染予防効果についての研究成績によれば,1期3回の接種回数を2回にすることは可能である。接種回数を減らすことにより,小児の負担を減らすことができ,まれに接種部位に認められる発赤,腫脹等の強い反応を減少させることができる。

以上のことから,1期の接種回数を3回から2回に減らすことを早急に検討すべきである。

3.ポリオ生ワクチンについて

ポリオのわが国の患者発生状況は,最近10年以上にわたって年間ゼロないし数例以下であり,流行は確実に抑止されている。また,伝染病流行予測調査事業等の資料によれば,国内では野生株も常在しないと考えられる。このことから,わが国においては,2回投与を行う予防接種によって,ポリオは制圧されていると考えられ,この状態を維持すべきである。

しかし,海外ではなお流行のある国もあり,米国等ほとんどの国で接種回数は3回以上であることから,海外渡航者等については,今後法律に基づく定期接種以外にも任意接種が容易に受けられるようにすることが望ましい。

4.その他の留意事項

今後,これらの予防接種を推進するに当たっては,以下の点について留意する必要があると考える。

@ポリオのように短期間に集団の構成員に確実に接種することが必要な場合は別として,原則として,個別接種方式を推進しながら,接種率の向上に努めるべきである。

A禁忌該当等の理由で接種を受けられなかった者が,精密な検査や接種を受けられるような機能を持った機関を整備することも必要となっており,さらに検討を望みたい。

BMMRワクチンの採用により,近い将来麻しん,風しん,流行性耳下腺炎の流行が抑制された場合には,自然感染による自然の追加免疫効果が期待できなくなる。

こうした事例に対応するため,今後とも各種感染症のサーベイランスに努めるとともに,MMRワクチンの中学生年代への適用等を含め,小児以降の免疫維持のための予防接種方策等についても検討していくことが望まれる。






前へ 次へ
copyright
IASR