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Vol.9 (1988/11[105])

<特集>
コレラ菌の取り扱い変更について


わが国のコレラ防疫対策は,伝染病予防法および「コレラ防疫対策の実施について」に基づいて実施されているが,厚生省では今般取り扱いの一部変更を行った (コレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌の取扱いについて,昭和63年9月28日付,厚生省保健医療局長,厚生省生活衛生局長から各都道府県知事,指定都市市長および各検疫所長,支所長,出張所長宛参照)。

これは近年の細菌学の進歩によって,コレラ菌はコレラエンテロトキシン産生性と非産生性に分けられること,そしてそれぞれの菌と臨床症状との関係についても研究が進み「コレラという言葉はコレラ毒素産生性のVibrio cholerae O1によって起こった病気にのみ用いるべきである」(註1)といわれるようになったこともあって,現実的な見直しを図った結果である。変更に際しては,厚生省の公衆衛生審議会伝染病予防部会,コレラ小委員会がこれにあたった。コレラ小委員会の結論に基づいて改訂された主な点は以下の4項になる。

1.コレラ菌の中で行政上の防疫対策の対象となるのはV. cholerae O1で,かつ,コレラエンテロトキシンを産生する菌のみとし,コレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌の取り扱いについては特段の防疫措置は必要ない。

2.コレラエンテロトキシンの検査方法はRPLA法あるいはBEAD ELISA法によるが,該毒素産生性の判定が困難な場合,確定診断はコレラエンテロトキシン遺伝子の有無による。

3.国内初発であるか否かを問わず,真性患者及び保菌者としての決定は地方衛生研究所における検査結果によって行う。ただし,該毒素産生性の判定が困難な場合,あるいは検査が実施できない場合は,国立予防衛生研究所に菌株を搬入し,決定する。

4.コレラ類似菌(serogroup Hakata等)の診断は血清学的方法(Factor Aの有無)による。取り扱いはナグビブリオと同様でよい。

以上の各項目について変更の細部は,「コレラ菌検査の手引き」が同時に改訂され,厚生省結核・感染症対策室長より関係各位に配布されたので参照されたい。

最近のわが国におけるコレラ発生状況を,図および表1に示した。1984年は台湾ツアー帰国者による集団発生があったため92例の発生をみたが,1982〜1987年の数字は,30〜40例の発生が恒常的にみられる。今度のコレラ菌取り扱い変更によっても患者からの分離件数には大きな変動はみられないと思われる。魚介類および環境からのコレラ菌発見例数が今後どのように動くのか注目されるところである。参考までに,コレラ汚染地域を国内に持つ国からわが国に輸入された生鮮魚介類の輸入量の推移を示した(表2)。5年間で輸入量は2倍以上に増加し,食品検疫における細菌検査と検査精度の向上はますます重要となっている。

表3にV. cholerae O1,エルトール菌株のコレラエンテロトキシン遺伝子検出とRPLA試験について比較した阿部らの成績を示した(註2)。患者由来の95%,輸入食品由来株の27%,患者排泄による環境由来株の100%はコレラエンテロトキシン産生性であったが,その他の環境由来株はすべてコレラエンテロトキシン非産生性であった。

なお,病原菌検出状況報告書におけるコレラ菌は,1988年12月検出分までは現行書式に従来どおり記入し,エンテロトキシン非産生株検出の場合は註釈を付記されたい。

註1.「International Nomenclature of Diseases」,Council for International Organizatoin of Medical Sciences, 1985年

註2.日本感染症学雑誌,1988,Vol.62,Mar., 臨時増刊号,p.151

日本細菌学雑誌,1988,Vol.43,No.1,p.353



図1.コレラ菌の月別検出状況 1982年1月〜1988年8月
表1.わが国におけるコレラ発生状況(発見例数)
表2.コレラ汚染地域を国内にもつ国からの生鮮魚介類輸入量の推移
表3.我が国で分離したV.cholerae O1 エルトール菌株のコレラエンテロトキシン遺伝子検定成績とRPLA試験の比較





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