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近年の検査法の進歩によって,コレラ菌の血清学的分類のみならず,そのコレラエンテロトキシンの有無が診断可能となり,コレラエンテロトキシン産生性コレラ菌と非産生性コレラ菌に起因する臨床症状についても研究が行われ,コレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌は,その多くが大量の水様性下痢,脱水等のコレラ特有の臨床症状を起こさず,稀に非伝染性の経度の下痢,腹痛を起こすのみであることが明らかとなってきた。
また,1985年のCIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences)の「International Nomenclature of Diseases」の中でも,このことについて「コレラという言葉はコレラ毒素産生性ビブリオコレレO1(toxino-genic V. cholerae serogroupO1)によって起こった病気にのみ用いるべきである。」と記載されている。
一方,我が国でも早くからコレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌に関する研究が行われ,その進展とともに関連研究者等から,その取扱いについて行政的に検討を行うように要望があった。
そこで,今般,コレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌の行政上の取扱いについて検討を行うこととし,昨年9月以降3回にわたってコレラ小委員会を開催し,この問題について検討を行った。
なお,最近,コレラ菌混合血清でビブリオコレレO1と共通抗原を有するコレラ類似菌の検出が相次ぎ,これに対する行政上の対応についても併せて検討を行った。
検討結果について
1.コレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌の行政上の取扱いについて
コレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌の取扱いについて,基礎医学,臨床,行政面から種々検討が行われた結果,下記のように取扱うことが望ましいという意見が多数を占めた。
(1)ビブリオコレレO1で,かつ,コレラエンテロトキシンを産生する菌のみを,行政上の防疫対策の対象とする。
(2)環境から検出されたコレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌については,特段の防疫措置は必要ないと考える。
なお,コレラエンテロトキシン産生の有無によって行政上の取扱いを区分することを実施するにあたっては,コレラエンテロトキシンの標準的検査法を早急に確立する必要がある。
また,環境からコレラエンテロトキシン非産生性コレラ菌が検出された場合の疫学的調査の意義も評価されるべきとの意見があった。
2.コレラエンテロトキシンの検査方法について
(1)当分の間,RPLA(逆受身ラテックス凝集)法によってスクリーニングを行う。
疑陽性の場合は陽性に準じた行政上の取扱いを行う。
ただし,精度管理について,今後なお,検討を継続し,早急に標準法を定める必要がある。
(2)ELISA法(酵素抗体法)の確立を急ぎ,これがルーチンの検査法として行えるようになった場合は,この方法もスクリーニング法とする。
(3)疑陽性の場合,確定診断はコレラエンテロトキシンの遺伝子の有無による。
3.コレラ類似菌(“Serogroup Hakata”等)について
当該菌の取扱いについては,NAG Vibroと同様に行って差し支えないと考える。
また,この診断は血清学的方法(Factor Aの有無)による。
なお,本件についても診断法の標準化を図る必要がある。
4.コレラ菌の確定診断について
従来,国内初発真性患者又は保菌者から検出されたコレラ菌の血清型及び確定診断は,国立予防衛生研究所で行うことになっている。
しかし,検査設備,技術等の進歩した現在,これを地方衛生研究所等の検査施設で行っても支障ないものと考える。
なお,我が国で検出されたコレラ菌については,菌株を保管し,今後の研究・防疫対策に資する必要がある。
公衆衛生審議会伝染病予防部会コレラ小委員会
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