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Vol.9 (1988/11[105])

<国内情報>
Salmonella血清型Champaignの流行?


最近,ほとんど時期を同じくして3件のサルモネラ菌株の同定依頼があった。1件は広島県衛生研究所からのもので,集団食中毒事例からの分離菌である。他の2件は茨城県衛生研究所と愛知医科大学付属病院からの依頼であるが,これらは集団事例からのものか,散発例由来のものか不明である。しかし,3菌株ともその抗原構造は39:k:1,5で,きわめてまれな血清型Champaignと同定された。

Typhimuriumのような頻度の高い血清型は,それだけでは疫学マーカーとしてあまり利用価値がないが,まれな血清型の場合には血清型だけで感染源をつきとめることがしばしば可能である。とくに,同時期にまれな血清型の感染が数ヵ所で発生したときにはそれが一層容易で,たとえばアメリカの23州,カナダの7州にわたって血清型Eastbourneの感染症が発生した際,共同調査によってある工場で製造されたチョコレートボールが共通の媒介物としてあげられている。これらの過去の報告例から考察すると,今回のChampaignの感染もおそらくどこかの工場の食品に本血清型の汚染があった疑いがもたれる。同様な例は過去にもあり,10数年前に血清型Cerroおよび乳糖発酵性のLivingstone感染の散発症例が関西で多発し,次第に全国的に拡りをみせたが,これらもある特定の工場の汚染に端を発したものとわれわれは考えている。

サルモネラの血清型は疫学マーカーとしてのみ意義がある。残念ながら,わが国の現在の行政機構では,1地域内の流行や散発例の多発の際には血清型によって感染源を追求することも可能であろうが,それが数県にまたがるときには,あとになって国で集計されるだけで,血清型別の意義が生かされない。一考を要する問題である。



予研・細菌部サルモネラセンター 田村和満





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