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Vol.9 (1988/11[105])

<国内情報>
病原大腸菌が疑われる学校給食による食中毒事例―群馬県


1988年6月に群馬県吾妻町のS小・中学校で食中毒が発生したが,その原因としてD社製の市販抗血清には該当しない血清型の病原大腸菌が考えられたので,その概要を報告する。

6月25日にS小・中学校で児童・生徒・教師等が腹痛,下痢,発熱等の症状を訴えている旨,中之条保健所に通報があり,調査が開始された。摂食者は515名,患者数256名(腹痛81.6%,下痢57.0%,発熱11.7%等)であった。小・中学校同時に発生し,各学年,教職員等広範にわたっていることから,共通食品である学校給食が疑われた。給食はS共同調理場で2校分が作られた。23日,24日の給食(検食)12件,患者糞便25件,調理従業者糞便6件,拭きとり6件が当所へ搬入された。検査の結果,黄色ブドウ球菌及びウェルシュ菌が若干名から検出されたが,食中毒との関連は考えられず,原因不明のままいったん調査を打切った。

しかし,多くの患者からDHL平板上でほぼ純培養状に大腸菌が出ており,同菌はBTBテイポール上で良好に発育する白糖陰性の大腸菌であることから,市販抗血清にはない血清型の病原大腸菌の可能性が考えられた。そこで,患者3名より1株ずつ選び,抗血清を作製した。約1ヵ月後,患者,調理従事者,食品より分離保存しておいた大腸菌計102株についてあたったところ,患者25名中20名,調理従事者6名中2名及び生野菜からの株が凝集し,抗体価もほぼ同じであり,同じ血清型の大腸菌と思われた。生化学的性状,薬剤感受性も同じパターンを示した。患者血清を2ヵ月後の8月30日に採血し,加熱死菌を抗原として試験管凝集反応を行ったところ,20名中7名が20倍,5名が40倍の抗体価を持っていた。以上の結果より病原大腸菌が原因菌として考えられた。

24日の検食生野菜から同一菌が分離された(検査7株中5株)が,24日の給食前23日昼頃から散発的に22名が発症しており,ピークは25日の6〜7時にあるものの生野菜が原因食とは決定できなかった。

同菌の血清型については予研にお願いして検査中である。

群馬県では,1985年5月にO25:H−(LT+ST−),1987年5月にO87:H21と今回と合せ3件のD社製OK混合血清にない血清型の病原大腸菌によると思われる事件が起きており,私達のような地研においては対応の難しい原因菌による食中毒が他にも発生している可能性があり,今後注意したい。



群馬県衛生公害研究所 大谷仁己 亀田三男





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