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Vol.10 (1989/1[107])

<国内情報>
感染性腸炎研究会報告 腸チフス・パラチフスAの臨床的検討 1986年


1986年1月〜12月に全国の指定都市立14伝染病院に入院した腸チフス・パラチフスAを集計した。

年齢・性・推定感染地:腸チフスは46症例について検討した(表1)。男女比は28:18と男性に,年齢は20〜30代に多くみられた。推定感染地は国内(28例,60.9%)が国外(18例,39.1%)より多かったが,とくに20代では10/12例と海外感染例が高率であった。感染地の多くは発展途上国であり,インド亜大陸6例,フィリピン4例がとくにめだった。45例が初発例で,再発は1例のみであった。

 パラチフスAは11例経験された。男女比は8:3であり,20〜30代の症例が多いことは腸チフスと同様であった。11症例のうち国外例が7例と国内例4例より多く,全例が初発例であった。

腸チフス患者送院までの診断名:腸チフスと診断されて伝染病院に送院入院となるまでの診断名としては「不明の発熱」が圧倒的に多かった(表2)。このほか,急性胃腸炎,下痢症,腎盂腎炎,感冒等が散見された。

臨床症状:腸チフス,パラチフスAの臨床症状を比較した(図1)。比較的徐脈(100/分以下)は腸チフス,パラチフスAともに見られたが,とくに前者で57.1%と高頻度であった。バラ疹の出現率も腸チフス(36.8%)でパラチフスA(25.0%)に比べ高率であった。下痢は発病1週間以内,2週間以後とも約半数の症例で認められた。腸出血や腸穿孔などの重篤な合併症は腸チフス症例で少数報告された。

 発熱:最高体温(表3)は腸チフスで39〜40℃であったが,パラチフスAでは39℃台が多く,腸チフスに比べてやや低い傾向がみられた。有熱期間は腸チフスで中央値が8〜14日であったが,1〜36日以上と幅広い分布を示した。

白血球数:入院時白血球数を検討すると(図2),腸チフスで最も多かったのは4,000/mm3台であり,その多くが<6,000/mm3台とその高い体温に比べて少ないことが注目された。パラチフスAは症例が少なかったが,その多くが5,000/mm3台であった。

 化学療法:腸チフス,パラチフスAともにその多くの症例の治療にCPが用いられた(表4)。その治療成績は良好であり,腸チフスに対してCP+合成PC+ENXを使用した1例で再排菌を認めたほかは,CP単独投与例やCP+合成PC使用例はすべて除菌に成功した。

 入院期間:伝染病院での入院期間の累積日数を表わした(図3)。入院時すでに治療が開始されていて入院期間が短い症例もみられたが,両疾患とも約50%の症例が35日間の入院を必要とした。また,大多数の症例(80〜90%)は50日前後の入院期間を要し,腸チフスで最長64日間を必要とした症例もみられた。

まとめ:感染性腸炎研究会参加都市立14伝染病院*へのアンケート調査票を集計し,腸チフス,パラチフスAの臨床的解析を行った。

なお,本稿の主旨は第62回日本感染症学会総会(1988年4月,名古屋市)で発表した。



※感染性腸炎研究会(会長:中谷 林太郎)参加都市立14伝染病院(市立札幌病院南ヶ丘分院,東京都立豊島病院,同駒込病院,同墨東病院,同荏原病院,川崎市立川崎病院,横浜市万治病院,名古屋市立東市民病院,京都市立病院,大阪市立桃山病院,神戸市立中央市民病院,広島市立舟入病院,北九州市立朝日ヶ丘病院,福岡市立こども病院,感染症センター)



感染性腸炎研究会(会長:中谷 林太郎)
都立駒込病院感染症科 増田 剛太ほか


表1.腸チフス・パラチフスA患者の年齢,性,その他(1986年)
表2.腸チフス患者送院までの診断名(1986年)
図1.腸チフス・パラチフスA患者の臨床症状および所見(1986年)
表3.腸チフス・パラチフスA患者の体温(1986年)
表4.腸チフス・パラチフスA患者の化学療法(1986年)
図2.腸チフス・パラチフスA患者の入院時白血球数(1986年)
図3.腸チフス・パラチフスA患者の入院期間(1986年)





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