|
(感染症月報:昭和63年7月〜9月)
昭和63年11月8日
STD定点:性感染症サーベイランスも2年目後半に入り,定点選出になお問題は残すものの,一応の安定した成績が出るようになってきた。
1.淋病様疾患:図1に示されるごとく,ボーナス期に次ぐ月々,言い換えれば若者がPlay Townに出かけやすい時期,年末年始および夏期に定点当たりの症例数の推移に高いピークがみられている。最近一般臨床においてやや淋菌感染例数が減少しているような印象をもつ臨床医が多いが,このサーベイランス成績でも,定点当たり症例数がやや低くなりつつあるかに見える。今後の推移を見守りたい。
2.陰部クラミジア感染症:他の性感染症症例数を淋菌感染症症例との症例比で検討することが多いので,以下の他の疾患はすべて定点当たりの対淋菌感染症症例比で成績をまとめてみることにした。図2に見られるごとく調査開始期より対淋菌感染症症例比はほぼ0.80±0.05の中でのバラツキを示すにすぎなかったが,1988年7月以後は,0.95±0.05に上昇してきている。これは淋菌感染症症例の軽度の減数のみでなく,クラミジア検出症例数の増加がめだつことによる。クラミジア検出技術が一般臨床レベルに次第に普及定着しつつあることによるとも考えられるが,クラミジア感染症の流行がさらに顕著になりつつあるとも言える訳で,今後注目してゆくべき問題点であろう。
なお,クラミジア感染症は無症候感染の症例がかなり多く,顕症例の同数またはそれ以上とも推定されている。今後スクリーニング検査が普及し,無症候感染例の検出率が高くなれば,本感染症症例数はさらに急速に増えてゆくことになろう。
1988年のクラミジア感染例の対淋菌感染症症例比が,北海道0.76,東北0.71,関東甲信越0.90,東海・北陸0.63,近畿0.88,中国・四国0.60,九州・沖縄0.63と地方により検出率に差がある。このように大都会の多い地域がやや高いことが,その地域でのクラミジアの流行が多いためか,検出技術の普及がよいためなのか判断に苦しむ所である。両者ともその可能性は高く,大都会地区ではむしろ両要素が重なって,高検出率となっているものと考えたい。
3.陰部ヘルペス:これは図3に示されるように,昨年来全く対淋菌感染症症例数はほぼ0.30±0.05間の変動に止まり,症例数に変化がない。
4.尖圭コンジローム:図4に示されるように,昨年は陰部ヘルペスに比して症例が多かったものが1987年末より症例数も少なくなり,今年に入り対淋菌感染症症例比がやや低下傾向を示す。本年に入ってからは,ほぼ0.30〜0.35の間に固定した推移を示している。アメリカでの報告では尖圭コンジロームが陰部ヘルペスより症例数が多いとされているが,本邦では逆になりつつある訳で興味深い所見であると言える。
5.トリコモナス症:トリコモナス症も今年に入り尖圭コンジロームと同様な傾向で,対淋菌感染症症例比が低めに定着しつつある。ただ,トリコモナス症がどの程度性感染症的性格をもつかという疑問があり,今後の検討課題と考えている。
なお,図6に淋病様疾患,陰部クラミジア感染症,陰部ヘルペス,尖圭コンジロームの罹患例年齢分布をまとめてみた。すべて男女とも20歳代にピークがある分布を示している。ことに女子では20代前半に高いピークがあり,分布の山が男子より若年者群に偏っている。トリコモナス症は年齢分布がかなり年齢が高いものにも広がっており,性感染症としてのニュアンスは必ずしも強くない点が注目される。
結核・感染症サーベイランス情報解析委員会
図1.淋病様疾患(一定点当たり報告数)
図2.陰部クラミジア症(対淋病様疾患症例比)
図3.陰部ヘルペス(対淋病様疾患症例比)
図4.尖圭コンジローム(対淋病様疾患症例比)
図5.トリコモナス症(対淋病様疾患症例比)
図6.年齢別・性別分布 淋病様疾患 陰部クラミジア症 陰部ヘルペス 尖圭コンジローム トリコモナス症
表1.月別患者発生状況
表2.年齢別性別患者発生数(昭和63年第3四半期現在)
|