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一般に,SRSVによる胃腸炎の集団発生が起こると食中毒事例として保健所の活動が始められるが,冬季には「集団かぜ」として処理される場合も少なくないようである。このことに焦点をあて,今冬季における東京都の調査結果をまとめてみたので紹介する。
1.「集団かぜ」の事例の調査結果
@1988年10月20日(第43週)から1989年2月4日(第5週)までの期間に,都内でインフルエンザウイルス流行実態調査の検査対象とされた「集団かぜ」事例は30集団(30地区)で,このうち21集団についてはウイルス学的,血清学的にインフルエンザウイルスやアデノウイルスが病因と確認されたが,9集団は病因不明であった。この病因不明9集団のうち8集団(患者36名)について,対血清を用いたウエスタンブロット(WB)法によるSRSV抗体調査を,4集団(患者19名)についてはふん便材料による電顕検査を実施した。その結果,7集団(患者22名)にSRSV感染が証明された。
この他,インフルエンザウイルス感染が確認されているが,患者の症状からSRSV感染症も疑われた2集団の患者8名についてWB法で調べたところ,両集団の3名にSRSV抗体上昇が証明された。
すなわち,「集団かぜ」事例30集団中に9集団(30%)のSRSV感染症が混在していた(図1)。
ASRSVとインフルエンザウイルスそれぞれの感染が確認された患者の症状を比較すると両者に明確な差が認められた。すなわち,38℃以上の発熱,頭痛,せき,咽頭痛はインフルエンザ感染確認例で高率であり,嘔吐および下痢はSRSV確認例で高率であった(表)。
BSRSV9集団中7集団は1988年第48週までに発生し,特に第48週にはその数がインフルエンザウイルスの集団数を上まわった。すなわち,両者の流行は互いに重なり合っていたが,SRSVの流行の方が先行していた。
2.食中毒疑いの事例の調査結果
@上記の期間に都内で集団発生し,食中毒が疑われる事件として取り扱われた非細菌性急性胃腸炎事件38集団(うちカキ喫食関連24集団)の患者185名(うちカキ関連93名)のふん便材料を電顕法で調査したところ,76%に当たる29集団(うちカキ関連19集団)の患者80名(43%)からSRSVが検出された(図2)。
A比較的早い時期(第46週と48週)に発生したSRSV陽性事件についてみると,7集団のうち5集団はカキ非関連事件であり,そのうちの3集団は保育園,幼稚園および小学校で発生したものであった。この5集団は食中毒疑いとして取り扱われたものであるが,原因食品は推定されておらず,医師に受診した多くは「かぜ」と診断されている。
以上の結果注目される点は,第46週から第48週までに発生した「集団かぜ」事例およびカキ非関連の食中毒疑い事件に占めるSRSV陽性事例の割合が高い点である。この時期は,東京都感染症サーベイランス情報によると,乳児嘔吐下痢症以外の感染性胃腸炎の定点当たりの報告数が急増した頃であった。そして,インフルエンザの報告数が急増する直前の時期でもあった(図3)。
冬季インフルエンザの流行時には,SRSVによる胃腸炎発生が「集団かぜ」という表現の中に埋没される可能性を示すもので,今後の対応上示唆が多いと考える。
東京都立衛生研究所 安東 民衛,藪内 清
表 「集団かぜ」事例における起因ウイルス別症状発現率−東京都
図 東京都におけるウイルス性疾患の週別発生状況
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