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われわれは,1980年から松山市の石丸小児科医院を定点とし,主に電子顕微鏡法による小児の急性胃腸炎の病原検索を行い,病原ウイルスの消長を観察してきた。近年,感染性胃腸炎が増加する11月から12月には,ロタウイルスの検出率が低く,この時期の急性胃腸炎の主要な病原体はロタウイルスではないと考えられた。
感染症サーベイランスにおける愛媛県内の感染性胃腸炎患者数は,1988年11月中旬から12月中旬(第46週〜50週)の間は10名/週/定点を越え,前年の倍以上であった。1989年1月には3〜4名に減少した。この期間の電顕法による患者糞便からのウイルス粒子検出例数を表1に示した。11月には直径30〜35nmの小球形粒子,いわゆるSRSV(small round structured virus)が9例(14%)検出された。ロタウイルス,アデノウイルスはともに1例ずつであった。12月はSRSVは3例(5%)に減少し,ロタウイルスは8例であったが,そのうちの6例は12月下旬の検体から検出された。1月には例年と同様ロタウイルスが増加し19例(46%)検出された。このようなウイルス粒子の消長パターンは例年繰り返し観察され,11〜12月の急性胃腸炎の主要な病原体はSRSVであろうと考えられる。
表2にウイルス粒子が検出された患者の症状の発現頻度を示した。例数が少ないがSRSVとロタウイルスの陽性者の間には,明らかな差異があり,SRSVは熱発・下痢が少なく,嘔吐が多い特徴がみられた。また,ウイルス陽性者の年齢分布ではSRSVが1歳以下が30%であったのに比べ,ロタウイルスは50%で,SRSV陽性者が幅広い年齢層に分布する傾向がみられた。
患者数に比較してSRSVの検出率が低いが,その理由として,糞便中のウイルス排泄期間が短く,また,排泄量が少ないことが考えられている。われわれのSRSV検出例はその多くが電顕による検出限界に近いウイルス粒子数であり,SRSVによる感染を確実に診断するためには,より感度の高い検出法が必要であると思われる。
愛媛県立衛生研究所 大瀬戸 光明,山下 育孝
表1.急性胃腸炎患者からのウイルス粒子検出数−愛媛県
表2.ウイルス陽性者の症状出現頻度(%)−愛媛県
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