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Vol.10 (1989/3[109])

<国内情報>
福岡県におけるウイルス性下痢症とsmall round virus(SRV)


 ウイルス性胃腸炎は毎年冬期に流行し,患者の糞便中からはロタウイルスや種々の小型球形粒子(SRV)が検出される。しかし,SRVはロタウイルスに比べるとウイルスの性状,培養法,食品との因果関係など不明の点が多く,ウイルス学的および疫学的データの集積が必要とされている。福岡県においてもSRVに起因する急性胃腸炎解明のため,感染症サーベイランス事業と食中毒様の集団発生で搬入された検体からの粒子の検索同定や感染経路および季節的消長に関する調査を実施している。以下に1987年〜1988年のウイルス性下痢症の発生状況と粒子の検出状況について述べる。

 図1に1987年〜1988年の県下サーベイランス患者情報による乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎の週別患者発生状況を示した。1984年11月から1988年2月までの両疾患の流行についてみると,流行規模に多少相違が認められるものの発生パターンは類似しており,11月頃から患者が増加し始め,12月と1〜2月にかけて二峰性のピークを有する流行形態を繰り返してきた。しかし,今冬(1988年11,12月現在)の流行は両疾患とも昨年と異なっている。すなわち,乳児嘔吐下痢症は昨年同期より患者発生の立ち上がりは早かったが,その後は12月に向けてなだらかな上昇を示す小規模な流行が持続している。一方,感染性胃腸炎に関しても,患者発生の立ち上がりは昨年より早く,11月〜12月中旬にかけ患者数が急増し,流行規模も大きく,12月中旬に高いピークに達したが,以後急激に減少している。年齢層別の発生状況(図2)についてみると,4歳以下の乳児嘔吐下痢症では好発年齢層のピークが1〜2歳であるのに対し,感染性胃腸炎は各年齢層に罹患が認められ,好発年齢層のピークは5〜9歳であった。

 表1は1987年7月〜1988年12月に搬入された検体からの粒子検出状況を示したものである。検体搬入状況を疾患別にみると,乳児嘔吐下痢症の1987年11月〜1988年2月までの搬入状況は例年同様であったが,今冬は検体の搬入がなかった。これは例年に比べ本疾患の発生が少ないことと,検査が容易なため定点が民間の検査機関に依頼しているためと考えられる。感染性胃腸炎の検体は1987年11月〜1988年5月まで継続して搬入されたが,今冬は11月後半に集中的に搬入されたことが特徴的であり,これは今冬の本疾患の流行を反映しているものと考えられる。前期の期間中に搬入された66検体の電顕検索により,サーベイランスでは20件中11例,集団発生では46件中18例の計29例から,ロタウイルス(10例),SRV(18例),アデノウイルス(1例)が検出された。ロタウイルスとSRVの検出数はともにこれら2疾患の患者発生パターンと一致して夏期に少なく冬期に増加した。年齢別検出状況では,ロタウイルスが0〜1歳の乳児から高率に検出されたのに対し,SRVは学童から成人に至る幅広い年齢層から検出された。また,1987年12月〜1988年5月のSRVの流行には,患者血清を用いた免疫電顕によって血清学的に異なる数種の粒子が混在していたことが確認された。その中で生カキが原因と考えられる集団発生例から検出された粒子はこれまでに東京都や愛媛県で検出されているSRVの一種と血清学的に近縁であることが示唆された。ロタウイルスに関しては,1988年4月と11月に小学校で集団下痢症の発生があり,検査の結果,学童(7歳)3名から非定型ロタウイルス様粒子(R-PHA陰性)が検出されたが,電気泳動による型別判定は実施していない。この他に,1988年12月と1989年1月に大分県公害衛生センターから依頼された集団発生2事例からSRVを検出した。

 以上が福岡県の状況であるが,SRVに関するデータ集積のためには,電顕を唯一の検出手段とする現状では,電顕を所有しない地研との調査研究の協力体制を確立することが必要と思われる。



福岡県衛生公害センター 大津 隆一,大久保 彰人,福吉 成典,高橋 克巳


図1.福岡県における週別患者報告数
図2.年齢層別の患者発生状況(1988年1月〜12月)
表1.電顕による月別の粒子検出状況





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