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Vol.10 (1989/3[109])

<国内情報>
1988年のCox. A群ウイルスと中和試験の功罪


 1988年のCox. A群は4,10,16型の流行であった。このうち,ヘルパンギーナ,手足口病から分離されたA4,16型は比較的たやすく同定できたものの,ヘルパンギーナ,咽頭炎などからのA10分離株の型決めにはかなり紆余曲折があり,終わってみれば極めて単純に“中和抗体でみた時抗原性の変化がCox. A10にあるのではないか”ということになった。参考までにその経緯について書いてみたい。

 従来哺乳マウスで分離したウイルスは補体結合反応,IAHAで同定していたが,最近7〜8年はRD細胞を使用したプラック減少法にたよっている。これは面倒な補体結合反応より,少数の検体でも手軽にできることによる。

 同定には通常他県の検出情報も参考に,標準株で準備したA2〜6,8,10型の抗体を適宜組合せながら中和試験を行なっている。

 1988年の分離株はCox. A4抗体ときれいに反応するものと,Cox. A10抗体にわずかに反応する株に2分された。この時に使用したCox. A10の抗体は1987年までのCox. A10分離株を同じ濃度で完全に中和していたことから疑いもなく他のタイプと思い込んでしまった。

 新たに1988年の分離株の代表で作った免疫マウス腹水でスクリーニングする一方,分離株の中に咽頭結膜熱からのものもあり,近ごろ話題のCox. A24ではと予研から抗血清を譲り受け,また,単発的に分離報告のあるCox. A1,7にも手をひろげ,他県からの相次ぐCox. A10の報告にもかかわらず,珍しいウイルスではと淡い望みを持った。しかし,Cox. A10標準株,分離株で作った8種類の抗体(50〜100単位)で中和すると1976年と78年の一部の分離株で作った抗体とは強く反応したが(当時補体結合反応で同定していたため自信がなかった),標準株,81年以降の分離株の抗体ではわずかに可能性を示す程度のプラック減少であった。

 最後に,伝家の宝刀ともいうべき予研腸内ウイルス部萩原先生からいただいていたウマ血清を取り出して中和するとCox. A10の抗体のみで中和され,さらに前出の自家製のA10,8種類とA2,A4,正常マウス腹水,エンテロレファレンス委員会作製のA1〜10で補体結合反応試験をすると,全てのA10抗体で同程度の反応がみられた次第である。

 最近の傾向としてより特異性の高い方法が採用されることが多い状況の中で,今回は改めて古典的ともいえる補体結合反応の利点を痛感した。



島根県衛生公害研究所 板垣 朝夫,飯塚 節子





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