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出生時に重篤な症状を呈し,ウイルスあるいはトキソプラズマの胎内感染が疑われた症例から,日齢1日の尿と咽頭ぬぐい液を用いて,サイトメガロウイルスを分離したので報告する。
患者は在胎39週2日,出生体重2,245g,自然分娩にて出生し,在胎中母体には特に異常は認められなかった。出生時所見は,Apgar score5点,頭囲28.0cm,四肢振戦,点状出血斑,易過敏性,肝脾腫大が認められた。
当院ではウイルス分離に,通常,自家作成の人胎児細胞(HES),Vero,HEp2,HeLaを用いている。本症例では,検体採取後4℃に保ち,その日のうちに細胞に接種したところ,翌日には咽頭ぬぐい液から,また,4日後には尿からも,それぞれHESにのみ全面に球形化したCPEが認められ,アデノウイルスによるものかと考えられる程であった。しかし,CPEの進展は遅く,また他の細胞には認められないため,サイトメガロウイルスと考えた。後日,培養液上清に感染性がないことと,ヘマトキシン・エオジン染色により感染細胞中の核内封入体を確認し,蛍光抗体法によりサイトメガロウイルスと同定した。
先天性サイトメガロ感染症は,本邦において年間8,000人程が出生し,その10%が顕性発症していると推定されるが,実際の報告例数は少ない。これは,本症の確定診断には生後できるだけ早く,少なくとも1週間以内の尿から,ウイルスの分離あるいは抗原の確認が必要とされ,病原診断されずに見過ごされている症例が少なくないと考えられている。
本症例は,低出生体重児,肝脾腫大,直接ビリルビン値上昇を伴う高ビリルビン血症,血小板減少に伴う皮下出血斑,網膜脈絡炎,小頭症,傍脳室石灰化,肺炎などの先天性サイトメガロウイルス感染症のすべての症状が認められ,比較的まれな症例と考えられる。また,サイトメガロウイルスの分離には,通常CPEが認められるまで,1〜2週間必要であるが,本症例は翌日にはCPEが認められ,そのウイルス量および感染性の強さと患者の症状との関連に一考が必要かと思われた。
国立京都病院臨床検査科 渡久地 政茂,石井 明彦,平峰 繁,井唯 信友
同 小児科 林寺 忠
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