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Vol.10 (1989/8[114])

<国内情報>
Shigella sonneiによる集団発生事例−福岡市


1989年4月,福岡市東区内の児童養護施設(職員30名,児童87名)で,S. sonneiによる集団赤痢が発生した。概要は以下の通りである。

4月6日:施設の児童2名からS. sonnei検出の届出があり,職員,児童及び患者帰省先家族の接触者検便を実施。同時に症状の重い29名を疑似患者として,こども病院感染症センターに収容。

7日:患者家族及び同級生と担任教師の検便を実施,さらに疑似患者3名収容。

8日:疑似患者のうち18名からS. sonnei検出,接触者検便により保菌者6名が発見され収容,施設内(2回目)及び,新たな患者の同級生等の検便を実施。

9日:疑似患者6名からS. sonnei検出,さらに疑似患者1名を収容。

  10日:保菌者1名発見,収容。施設内(3回目)及び同級生等検便実施。

  11日:疑似患者1名よりS. sonnei検出。

  12日:保菌者1名発見,収容。施設内(4回目)及び同級生等検便実施。

  14日:保菌者3名発見,収容。施設内(5回目)及び家族等検便実施。

  16日:保菌者1名発見,収容。

17日,18日の接触者検便(施設内6,7回目及び同級生等)では保菌者は発見されず,患者の発生も無く4月20日終息した。S. sonnei陽性者数は39名(職員6名,児童33名)であった。当所における検査状況は表1に示す通りで,のべ1,166件について,SS,DHL,Hecktoen Enteric Agar(BBL)を用いて検査した。井水については,普通ブイヨンと霜鳥らの改良Shigella Brothによる増菌培養も併せて実施した。

分離菌株は全てS. sonneiT相でcolicinは12型であった。薬剤感受性試験は,SM,TC,ABPC,CP,KM,CL,SFについて実施し,SM,TC,KMに耐性であった。

 発生施設では井水を浴用,雑用水として使用しているが,残留塩素が検出され,細菌検査の結果,飲用適であり,赤痢菌も検出されなかった。患者に海外旅行歴は無かったが,男子担当保母の1人(接触者検便で陰性)が,本年1月中旬インド・ネパールに旅行しており,滞在中下痢が続いていたとのことであった。しかし,帰国時には軽快していたため検疫所では検査せず,その後再び下痢症状があったが,医療機関等への受診はしていない。1月下旬から施設内で下痢症状を有する児童が目立ったとのことであるが,インフルエンザ流行の季節でもあるため因果関係は不明であった。施設は,本館,男子棟,保育棟,職員宿舎に分かれており,患者の発生は全体に広がっているが,特に男子棟が18人中11人S. sonnei陽性と高率であった。発症は3月末頃から4月6日で,感染源は不明であったが,感染経路は接触によると思われた。この施設は,保護者不在等の理由で児童を養護する施設で,本事例は,いわば大規模な家族内感染とも考えられる事例であった。特に,春休み期間中,内部での接触が濃厚になって集団発生となったと思われる。本事例では,赤痢菌検出の届出以降,全員が出校を見合わせ,早期に疑似患者を隔離収容することによって外部への拡大を防ぐことができた。福岡市では過去に大規模な集団赤痢が数回あり,その経験を有効に活用できたと考える。



福岡市衛生試験所 大隈 英子,真子 俊博,渡部 高貴,村尾 利光


表1.検査実施状況(福岡市衛試実施分)





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