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経過:岐阜県では1989年1月に岐阜市近郊料理店で会食した21名(年齢21歳から41歳)の内14名(66.7%)が潜伏時間33〜47.5時間を経て嘔気(10名71.4%),下痢(9名64.3%),腹痛(7名50%),嘔吐(4名28.6%)等の食中毒様急性胃腸炎症状を呈した。食中毒の疑いから摂食物調査を実施した結果,「生カキ」を摂食した17名中14名(82.4%)に発症が認められたが,少量を摂食した3名は無症状のままであった。「生カキ」が病因食物と推定されたが,食品衛生法に挙げられる病原細菌類と疑うものはいずれも分離検出されなかった。一方,ウイルス学的検索のために別途に材料として,表に示したように患者11名から糞便11検体(3〜4病日)を,また,血清学的診断のために患者13名と無症状6名から初回血清19検体(3〜4病日相当)を,さらに2回目血清として患者12名と無症状6名から18検体(17〜18病日)を採取した。
方法:例年冬期流行するヒトロタウイルス(HRV)について逆受身赤血球凝集反応法〔デンカ生研R−PHA試薬〕とELISA法(自験法)を併用し,また,アデノウイルス(ADV)40,41型については愛知衛研から捕獲,検出用免疫血清の分与を受けELISA法を,また,ラテックス凝集反応法(第一化学アデノレックス)でも検討した。分離培養は,糞便の約10%浮遊液からHela細胞とMA104細胞にて検討した。MA104では最終10μg/mlのアセチルトリプシンで37℃20分間処理し,最終4μg/mlのアセチルトリプシン加イーグルMEM液で37℃回転培養した。分離培養はいずれも2継代しか行わなかった。小型球形粒子(SRSV)検出には,約20%の糞便浮遊液をダイフロン処理後PEG#6000とNaClで析出抽出し,20%蔗糖液に重層し,平均10万Gで遠心,沈渣を再浮遊後,PTAネガティブ染色し電顕(日立H−600A)観察した。免疫電顕はKapikianらの方法に準じ,bVの患者精製抗原を用い被検血清の最終1:20稀釈での抗原への抗体付着状況で0,1+〜4+の5段階評価を与え,ペア血清で1段階以上の差を示したものを有意抗体上昇と判定した。
成績:HRVとADV抗原は全て陰性,分離培養も全て陰性であった。電顕によるSRSV検出では糞便材料の8名(検出率72.7%)にSRSVが検出され,突起部構造も観察された。粒子外径は約35〜40nmと計測された。免疫電顕では患者bVのSRSV抗原を用い検討した結果,患者回復期血清12例すべてと無症状「生カキ」摂食者3例を含む15例(83.3%)に急性期(0〜1+)に比してより多くの特異的と見られる抗体付着(3〜4+)が観察され,有意抗体上昇と判定された。今回のように,食中毒様事例についてウイルス血清学的検査を実施し,ウイルス検出と血清学的診断から明瞭で特徴のあるSRSV感染の証明が得られたことは貴重な事例と考えられる一方,今後も類似事例の発生するであろうことも考慮し,ウイルス検査の意義と行政的対応処置・早期の適切な検査材料採取を望みたい。
岐阜県衛生研究所 川本 尋義 三輪 智恵子
富山県衛生研究所 長谷川 澄代 森田 修行
元伊奈波保健所衛生課 小林 信行
岐阜県衛生環境部生活衛生課 後藤 判友
食中毒様急性胃腸炎集団発生とウイルス検査成績(岐阜県)
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