|
1986〜88年の3年間に地研・保健所から報告された腸管系病原細菌のうち,ヒト由来の検出総数は34,361で,うち7,834(22.8%)が輸入例であった。
表1は,病原体別に1986〜88年の輸入例の推移を示したものであるが,1986年20%,87年23%,88年26%と,増加傾向がみられる。
輸入例の比率が高いのはビブリオ属の菌に多く,プレシオモナス・シゲロイデス(88〜95%),コレラ菌O1(67〜94%),同O1以外(55〜93%),エロモナスH/S(42〜76%),ビブリオ・ミミカス(50〜100%)などにおいて高率に分離された。
腸炎ビブリオ,サルモネラ,カンピロバクターJ/Cなどは輸入例の検出数は多いものの,食中毒の主要原因菌として国内発生例も多いため,輸入例の比率は相対的に低くなっている。1988年には腸炎ビブリオの輸入例が検出総数の20%を示したものの,その他はいずれも10%前後にとどまった。
病原大腸菌による腸炎も海外罹患率の高い疾患であり,1983〜85年の輸入例の割合は38〜49%であったのが,1986〜88年には64〜73%と,さらに増加傾向を示した。一方,1986〜88年の赤痢菌の輸入例は30〜52%で,1983〜85年(24〜46%)に比べ,やや増加傾向を示したにすぎない。
腸チフス輸入例の総数は,この数年30〜50例で大きな変化はないが,1987年以降,本疾患の発生数が減少し,200以下となったため,輸入例の比率は相対的に上昇し,1988年には30%となった。パラチフスAは従来同様,腸チフスに比べ輸入例の比率が高い。
1989年1〜12月に報告されたヒト由来病原細菌の検出数からみた輸入細菌感染症の月別発生状況を,地研・保健所・都市立伝染病院,検疫所別に図1に示した。病原体別の月別発生パターンはいずれの機関においてもほぼ一致しており,赤痢菌が3〜4月と8〜9月に検出のピークがみられるものの,その他の病原細菌は7〜9月に大きな検出の山を示した。検疫所での検出が地研・保健所での輸入例検出数を上まわる病原体は,腸炎ビブリオ,プレシオモナス・シゲロイデス,コレラ菌O1以外などでビブリオ属の細菌に多かった。
1989年12月までに地研・保健所で分離された検出総数に占める輸入例の割合は,病原大腸菌55%,赤痢菌55%,サルモネラ9%,コレラ菌O1以外79%,プレシオモナス・シゲロイデス87%,エロモナスH/S72%,腸炎ビブリオ13%,コレラ菌O1が23%,チフス菌40%,パラチフスA菌21%などで,コレラ菌O1およびパラチフスA菌の国内集団発生の影響で,輸入例の比率が大幅に低下したのが注目される(表1)。
1989年に分離された輸入病原大腸菌の内訳は,地研・保健所集計では毒素原性大腸菌(ETEC)が輸入例総数の40%,病原性大腸菌(EPEC)が39%,都市立伝染病院ではETECが48%,EPECが39%,検疫所ではETECが74%,EPECが17%で,組織侵入性大腸菌(EIEC)はいずれの機関においても低かった。
1989年に地研・保健所で分離された赤痢菌のうち,輸入例の比率の高かったのは志賀赤痢菌91%(10/11)で,次いでフレクスナー赤痢菌69%(72/104)であったが,都市立伝染病院ではボイド赤痢菌93%(14/15),志賀赤痢菌84%(16/19)であった。従来,国内発生の多かったソンネ赤痢菌の輸入例が増加しており,輸入例のうち,地研・保健所で60%(140/235),都市立伝染病院で56%(175/310),検疫所で60%(130/218)がソンネ赤痢菌で占められている(表3)。
表1.病原細菌検出数からみた輸入細菌感染症の年次推移(地研・保健所集計,ヒト由来)
図1.病原細菌検出数からみた輸入細菌感染症の月別発生状況(1989年1〜12月,ヒト由来)
表2.輸入例から分離された病原大腸菌のうちわけ(1989年1月〜12月*)
表3.赤痢菌の血清群別のうちわけ(1989年1月〜12月*)
|