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1989年12月中旬,川崎市内の1保育園で,発熱,嘔吐,下痢を伴う急性疾患が多発した。107名の通園児の内,12月15日から22日にかけて44名が発症し,9名が入院した。12月16日に入院した園児の便および血液からSalmonella enteritidis(O9)が検出されたことから,この保育園児の疫学的調査が開始された。当時,この地域では,B型インフルエンザと感冒性胃腸炎の流行がみられ,個別例の診断は必ずしも容易でなかった。12月24日と28日,職員と園児の便培養が実施され,職員6名と園児85名からS.enteritidisが検出された。菌血症は2例に証明されたが,血液培養は数例に実施したにすぎない。入院例は15日以内に軽快退院した。1月5日と17日に一斉便培養を実施した。職員は全例除菌が確認されたが,36名の園児では無症状ながら,排菌が続いている。
川崎市には110ヵ所の保育園があり,約1万名の園児が通園している。給食は,全園で共通したメニューに従って,各園で調理して供しているが,今回の事例では,園内各所のふきとり調査では,サルモネラ菌は検出されていない。また,12月上旬に行った職員の定期検便の結果も陰性であった。12月13日のおやつに,ババロアが出されており,当日欠席していた園児11名からは,その後もサルモネラ菌は検出されていない。
1989年7月頃から,東京都およびその周辺地域で,S.enteritidisによる食中毒事例が著増しており,その中にババロアが感染源と推定される2事例が含まれている。今回の川崎市の1保育園の事例も,その一連の傾向と無関係ではないと思われる。川崎市民生局保育部では,向後,加熱しない鶏卵を用いる食品は,給食しないことにした。
(1990.1.23)
川崎市立川崎病院小児科 武内 可尚
日本鋼管病院小児科 菅谷 憲夫
川崎市衛生研究所 和田 明
川崎市民生局保育部 手塚 友子
川崎市医師会保育園医部会 池田 宏,田辺 裕文
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