|
日本の1989/90シーズンのインフルエンザの流行はA香港(H3N2)型とB型の混合流行で,初めに12〜1月にA香港型が先行し,遅れて2〜3月はB型が優位となった。
感染症サーベイランス情報におけるインフルエンザ様疾患の発生は第50週から増加し始め,年末年始にいったん下がった後1月に入って急増し,第5週をピークとして4月に入るまで引き続いた(図1)。
一定点当たり報告数は1989年第40週〜1990年第39週までの累計で256人で,1987/88同期間の累計179人を上回り,また,1988/89同期間の累計131人の約2倍となった。
患者年齢は5〜9歳32%,0〜4歳27%,10〜14歳19%と,小児学童が主である。流行の小さかった1989年に比べ,1990年は5〜9歳の割合が増加し,20歳以上の割合が減少した(表1)。
厚生省結核・感染症対策室に報告された学校等における集団発生報告によると,このシーズンの集発患者数は合計107万人で,1984/85シーズンのB型流行(105万人)と同程度,過去10シーズンでは1981/82シーズンに次ぐ規模であった。集発報告はサーベイランスの患者報告に比べ流行の大小の差をより強く反映する。前シーズンと比較すると患者報告が2倍増であったのに対し,集発報告は5倍増となった。
今シーズンのウイルス分離としては,まず8月神奈川でB型,9月横浜市でA(H3N2)型が検出された。その後,A(H3N2)型が11〜12月に東日本を中心に全国に拡がり,1月をピークとして5月までに54都道府県市から2,026株が検出報告された(表2)。一方,B型は1ヵ月遅れて12〜1月に関東と西日本を中心に全国に拡がり,2月をピークとして6月までに47都府県市から1,498株が検出報告された。流行の前半にA(H3N2)型,後半にB型を検出した地域,同時期に2つの型を検出した地域,A(H3N2)型のみを検出した地域,B型のみを検出した地域など,各地の流行状況に差がみられた。
ウイルスが分離された年齢は14歳以下が85%を占めた(表3)。B型は特に5〜9歳を中心に分離され,この年齢群だけはB型の検出数がA(H3N2)型の検出数を上回った。
予研ウイルスリケッチア部ウイルス第3室でフェレット感染血清を用いて実施した今シーズン分離株の抗原分析(表4,5)によれば,A(H3N2)型ではこの年のワクチン株から抗原性に差異のみられるA/北海道/20/89類似株の割合が高かった(67%)。B型では2つのワクチン株のうち,B/山形/16/88類似株の割合が高く,89%を占めた。
上記流行状況および抗原分析に基づいて,1990/91シーズンのワクチン株としてA/貴州/54/89(H3N2),B/香港/22/89,B/愛知/5/88およびA/山形/32/89(H1N1)が選ばれ,使用されている。
1990/91シーズンについては,12月6日現在,まだウイルス分離報告がでていない。
図1.インフルエンザ様疾患患者発生状況
表1.年齢群別インフルエンザ様疾患患者発生状況
表2.月別住所地別インフルエンザウイルス検出状況(1989年8月〜1990年7月)
表3.年齢群別インフルエンザウイルス検出状況(1989年8月〜1990年7月)
表4.1989/90インフルエンザシーズン中に分離された代表株の抗原分析(1989.10.1〜1990.3.31)
表5.1989/90インフルエンザシーズンに全国の地研から寄せられたインフルエンザウイルスの抗原分析
|