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志賀赤痢菌様毒素(SLTまたはVT)産生性E. coliO157:H7は1984年8月22日,兄弟発生例を思わせる1名のさかのぼり調査から分離し,わが国での感染例を明らかにして以来,(小林ら,病原微生物検出情報,1985,感染症学雑誌,1985),現在までの6年間に14名の下痢患者から検出している。このうち2例(4名)は同一家族からの検出であった(表1)。患者は男性9名,女性5名で8歳以下の子供が12名であり,本年になって47歳と76歳の女性の血性下痢患者から検出している。
患者の症状は,調査が不十分なこともあり,詳細は不明が多いが,これまで言われているような血性下痢(糞便の潜血反応陽性を含む)と腹痛である。76歳の女性患者は血性下痢での緊急入院例であった。なお,いずれも推定原因食などの感染源調査は実施できなかった。また,季節的な傾向はみられていない。
本菌の激しい血性下痢の原因と考えられているVT産生性ならびにその毒素型別は,鉄イオンを除いた特別な毒素産生用培地を準備し,37℃,48時間以上培養したのち,遠心上清中にVTが産生されているかどうかを,Vero細胞を用いて,さらに48時間以上の組織培養を行い判定する生物学的方法,あるいはVTの型に特異的な抗毒素抗体を用いて培地中の毒素を免疫学的に検出する方法によるが,現在のところ市販品はない。
一方,私たちは,本菌毒素産生性はファージによって介達される毒素遺伝子(slt)により制御されていることから(O'Brien et al. Science, 1984),直接slt(またはVT)を確認することにより,毒素産生性を調べるPolymerase chain reaction(PCR)法を開発し,同時にその型別ができるように考案した。その方法はVT−1,VT−2の毒素遺伝子の一部に相補的な塩基配列をもつ4種のプライマー(表2)を,加熱した被検菌液,4種のデオキシリボヌクレオチド液,耐熱性のDNAポリメラーゼおよびその反応用緩衝液,水を一定量づつ混合し(プライマー以外の各試薬あるいはキットの市販品がある),自動温度変換(私たちは94→55→72℃,各30秒加熱処理している)装置にセットし,25回反復させる。この混合液の1μlをアガロース電気泳動し,臭化エチジュウム染色後,トランスイルミネータ(300nm波長)で目的とした大きさのDNA断片の有無を観察する。この方法では菌液から3時間以内にVT産生性と同時にその型別を診断でき,極めて簡単な方法である。
その結果(表3),14株中8株はVT−1と2型の両毒素産生型で,6名はVT−2型のみであった。VT−1型のみはみられず,同一家族内感染例はすべて2型のみ産生株であった。中国散発発生例由来の分与(Xu et al., Curr. Microbiol., 1990)5株は両毒素型であった。なお,近年海外旅行者下痢症患者からしばしば検出され,志賀毒素を産生するS. dysenteriae type 1は当然のことながら1型であった。
当初でのE. coli O157:H7の分離には,本血清型株は,大部分のE. coliが分解するソルビトールを37℃,一夜では分解しない(または遅分解)ことを特徴としていることから,Desoxycholate-Hydrogen sulfate-Sorbitol(DHS)寒天培地を作成し(小林ら,公衛研所法,1984),効率よく本菌を分離するための選択分離平板培地として日常の検査に使用している。
以上のことから,出血性大腸菌O157:H7の分布調査,疫学調査ならびに毒素産生試験には,これらの方法が,検査の簡便化,迅速化に有効と考えられる。
大阪府立公衆衛生研究所 小林一寛
表1.VT産生性大腸菌の分離例
表2.VT型別用プライマー
表3.毒素遺伝子の検出
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