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Vol.12 (1991/1[131])

<資料>
腸管出血性大腸菌の疫学的,臨床医学的研究(主任研究者:京都大学医学部 竹田美文教授)に関する打ち合わせ会議(メモ)


平成2年11月26日



1.調査の背景

平成2年10月に,埼玉県浦和市の幼稚園で感染性下痢症の集団発生が起き,患者のうち2名が死亡し,10名以上の重症患者を出した。これらの患者の便からは,これまでわが国においては報告例の少ないO−157型等の病原性大腸菌が検出されている。O−157型等の腸管出血性大腸菌はベロ毒素を産生し,血性下痢症を起こし,一部の患者には腎不全,溶血性貧血等重篤な合併症を起こし,放置すれば死亡する極めて危険性の高い病原体である。

10月25日に本件に関して厚生省が開催した専門家会議では,「腸管出血性大腸菌の感染事例について全国実態調査を実施し,その実態の把握に努めること。また,本菌に係わる医学的知見等を専門家から聴取するとともに,それを取りまとめ医療機関等に周知する方策を検討すること」等の意見が出されている。

2.調査・研究内容

上記を踏まえ,下記の調査・研究を行い,結果をまとめて予防・診断・治療のガイドラインを作成する。

@過去2年間に全国の地方衛生研究所で検出された腸管出血性大腸菌につき,その感染経路,臨床知見等を含めて調査する。

A過去2年間に地方衛生研究所で分離・保管された病原大腸菌についてベロ毒素の検出を行う。

B全国約1,000ヵ所の小児医療機関を対象にアンケート調査を行い,出血性大腸炎及び溶血性尿毒症症候群の症例の有無を調べる(一次調査)。さらにこの一次調査で把握された症例を対象にその検査成績(細菌学的検査を含む),臨床症状,感染経路,治療内容,転帰等について調査する(二次調査)。

C出血性大腸菌に関する文献を調査し,これまでの内外の知見を整理する。

D今回の埼玉県の感染事例の調査

3.調査・研究組織

謹啓

時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。

平成2年10月に,埼玉県浦和市の私立幼稚園で感染性下痢症の集団発生が起き,患者の便からは,病原大腸菌の一種の腸管出血性大腸菌が検出されました。

10月25日に厚生省が本件に関して開催した「専門家会議」において,腸管出血性大腸菌の感染の実態の把握に努め,同大腸菌に係る医学的知見を取りまとめ,その対応策を早急に整備するよう提唱されております。

同大腸菌の感染の実態の把握に努め,医学的知見の取りまとめのために,厚生省は,平成2年度の厚生科研究特別研究事業で「腸管出血性大腸菌の疫学的,臨床医学的研究(主任研究者:京都大学医学部 竹田美文教授)」を行うこととしています。

この研究の一環として,全国の地方衛生研究所を対象として腸管出血性大腸菌に関する調査を予定しています。

調査の具体的内容については,国立予防衛生研究所細菌部から,貴下宛に連絡があることとは思われますが,本件調査に関し,地方衛生研究所全国協議会で宜しく御協力戴きたくお願い申し上げます。

敬具



平成2年12月20日

地方衛生研究所全国協議会会長

松崎 稔殿



厚生省生活衛生局食品保健課 課長 野村 瞭

厚生省保健医療局結核・感染症対策室 室長 堺 宣道



平成2年12月25日

各地衛研所長殿

地方衛生研究所全国協議会 会長 松崎 稔

腸管出血性大腸菌の調査に係る協力依頼について



このたび,厚生科学研究特別研究事業の「腸管出血性大腸菌の疫学的臨床医学的研究」研究班から地全協に対して別添のとおり協力依頼がありました。地研全国協議会としても組織をあげて協力したいと存じますので,御多忙の折恐縮に存じますが,当該症例調査及び菌株の送付等格別の協力を賜りたく,よろしくお願い申し上げます。

なお,送付先は直接国立予防衛生研究所細菌部へお願いします。

腸管出血性大腸菌(EHECまたはVTEC)の調査について

埼玉県浦和市の幼稚園で発生した腸管出血性大腸菌による下痢症を契機に,厚生省では平成2年度の厚生科学研究特別研究事業で「腸管出血性大腸菌の疫学的,臨床医学的研究」研究班を組織しました。

わが国における病原大腸菌検出状況は,地研・保健所をはじめ医療機関等から,組織侵入性大腸菌(EIEC),毒素原性大腸菌(EIEC),病原血清型大腸菌(EPEC)およびその他に分けて報告を受け,「病原微生物検出情報月報」に収載してきましたが,毒素産生性の詳細な情報は一部食中毒集団事例を除いて未確認のまま残されています。とくに,「病原大腸菌その他」にはEHECまたはVTECが含まれている可能性がありますし,EPECの中にも毒素産生性を検査すればVT(ベロ毒素)産生株が含まれている可能性を否定できません。現在VTの検出は,PCR法,ラテックス凝集反応,Vero細胞毒性試験等によっていますが,実態調査あるいはレファレンスの観点から,当面これら試験法を併用し同一機関で実施することが望ましいと思われます。

以上の状況をふまえ,前期研究班における地方衛生研究所を対象とした「腸管出血性大腸菌のわが国における分布状況の調査」は,国立予防衛生研究所細菌部および東京都立衛生研究所微生物部が幹事として実務に当たることになりました。下記事項につきまして御協力戴きますようお願い申し上げます。



1.貴研究所で1989年および1990年に分離・保存されている病原大腸菌菌株(EIECおよびETECを除く)および菌株送付書(別添・略)。

2.過去に貴研究所で経験された腸管出血性大腸菌によると推定された下痢症及び溶血性尿毒症症候群の症例についての調査表(別添・略)。

3.以上を平成3年1月19日迄に国立予防衛生研究所細菌部宛にお送り下さい。

平成2年12月21日

衛生研究所長各位殿

腸管出血性大腸菌の疫学的・臨床医学的研究

地方衛生研究所等の調査班幹事

国立予防衛生研究所細菌部 渡辺治雄

東京都立衛生研究所微生物部 工藤泰雄









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