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Vol.12 (1991/1[131])

<特集>
病原大腸菌


地方衛生研究所および保健所から検出報告される腸管系病原細菌のうち,病原大腸菌の検出数はサルモネラ,腸炎ビブリオ,カンピロバクターに次いで多い。一方,海外旅行者からの分離例,すなわち輸入例では病原大腸菌が最も多く,全輸入例の3割を占めている。

病原大腸菌検出数の季節変動を1984〜1990年10月までの月別検出数でみると,7〜9月の夏季に山を形成する発生パターンを繰り返している。1986〜1989年は輸入例の率が高く,その影響を受けたためか季節変動は少なく,夏季の山は小さかった。その他の年は国内での食中毒集団発生を反映し,夏季に大きなピークを示した。(図1)。1983年以降,地研・保健所をはじめ医療機関からの病原大腸菌検出は,組織侵入性大腸菌(EIEC),毒素原性大腸菌(ETEC),病原血清型大腸菌(EPEC)およびその他の区分ごとに,それらの血清型と併せて報告を受けてきた。表1に1983〜1990年10月までに地研・保健所で検出された病原大腸菌の年次別,病原性区分別報告数の推移を示した。例年最も多く検出されたのはETECで,病原大腸菌に占める本菌の割合は多い年で65.3%(1983年)少ない年でも46%(1987年),平均53.5%であった。次いで多いのがEPECで,同期間の検出率の平均は34%であった。1987〜1990年10月までに報告のあった流行・集団発生(患者発生数10名以上の事例)のうち,患者数50未満29件,50以上100未満8件,100以上500未満9件,500以上のもの5件,合計51件に及んだ。原因菌としてはETECおよびEPECが大部分を占めた(表2)。「病原大腸菌その他」と報告された中には腸管出血性大腸菌も含まれているが,ベロ毒素(VT)の検出がまだ一般的でないため詳細は不明のまま残されている。

腸管出血性大腸菌(EHECまたはVTEC)に関しては,1982年O157:H7による集団感染事例が米国で報告されて以来,本月報でも国内外の情報を紹介してきた (本月報Vol.6,No.4Vol.8,No.1Vol.11,No.2)。 1990年10月,浦和市で発生した腸管出血性大腸菌による集団発生は,2名の園児が溶血性尿毒症症候群(HUS)で死亡したため大きな問題となり,厚生省では本菌のわが国における分布状況を早急に調査することになった。平成2年度中は,特に地研・保健所で分離された病原性大腸菌のVT産生性に関するさかのぼり調査を全国地方衛生研究所を対象として実施することになった(本号参照)。

表3にわが国におけるVTECの分離状況を示した。東京都立衛生研究所および大阪府立公衆衛生研究所(本号参照)のまとめによるものである。1984〜1990年に検出された28事例中,23事例(82%)がO157:H7であり,VT1と2をともに産生するもの15事例(54%),VT2のみ産生するもの8事例(29%),VT1のみ産生するもの2事例(7%)であった。なお散発事例は25(89%)であった。



図1.腸管病原性大腸菌の月別検出数(1984年1月〜1990年10月)(地研・保健所集計)
表1.腸管病原性大腸菌検出報告数の年次推移(1984年〜1990年)(地研・保健所集計)
表2.病原性大腸菌による流行・集団発生事例(1987年1月〜1990年10月・速報)
表3.わが国におけるVTECの分離状況





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