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1990年,三重県の無菌性髄膜炎(AM)の患者は537人と,感染症サーベイランス調査が始まって以来,最も大きな流行であった。その原因は,エコー(E)30型と9型の波状流行による患者の増幅と考えられた。
1.流行状況
患者発生状況は図1に示した。流行は6月下旬から鈴鹿市に始まり,7月の194人を最高に減少傾向を示した。しかしながら,10月に入り75人と再び患者の増加がみられ,12月に至り流行はほぼ終息した。
患者の発生は三重県の北勢部に位置する鈴鹿市に集中し,6月76人(79.2%),7月117人(63.3%),8月10人(32.2%)と,この3ヶ月間の患者総数361人中218人(60.4%)が鈴鹿市の患者であった。その他の地区では,津市と四日市地区に多く,津市では62人(17.2%),四日市では56人(15.5%)の患者が報告されている。
10月の75人の患者も鈴鹿市と津市周辺部に集中し,両市の患者構成率は68%を示した。月から10月と長期にわたった流行期間中,大阪市に隣接する上野地区,和歌山県に隣接する尾鷲地区,観光地である伊勢・志摩地区では患者の発生はほとんど報告されなかった。
患者の年齢は,7月を中心に流行した第一波では5〜9歳の小児が多く,10月の第二波の流行では0〜4歳の乳幼児に多かった。
2.検出されたウイルス
162人のAM患者から分離されたウイルスは,コクサッキー(C)A9,CB1,CB2,CB5,E9,E30およびMMRワクチン接種後の患者から分離されたムンプスウイルスである。ウイルスが分離された患者は59人で,ウイルス別にはE9が分離された人が最も多く25人(42.4%),次いでE30の21人(35.6%)で,両ウイルスで77%を占め,E9とE30が本年のAMの主たる原因ウイルスであった。
図2は,E9とE30の月別分離状況である。E30は流行の第一波のピークである7月の16例を最高に,8月3例,9月1例,10月1例と減少して行くに反して,E9は7月,8月0例,9月5例,流行の第二波のピークである10月に15例と最高を示し,11月4例,12月1例と患者の減少に従った消長を示した。このようなことから,1990年の三重県のAM患者の多発は,E30に続くE9の波状流行がもたらしたものと考えられた。
三重県衛生研究所 石井堅造 広森真哉 山中葉子 杉山 明 桜井悠郎 石須哲也
図1.無菌性髄膜炎発生状況 1990年
図2.エコー30と9の月別分離状況 1990年(無菌性髄膜炎患者)
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