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Vol.12 (1991/4[134])

<国内情報>
秋田県におけるSalmonella serovar Enteritidisの動向


我々は,1975年から河川水,下水処理場流入水,と畜場汚水,犬糞便,食肉を対象として県内におけるサルモネラ菌の侵淫動向を調査すると共に,感染症サーベイランス検査定点医療機関を中心に下痢症患者からの同歯の検出動向調査を進めてきたが,1989年に入り,これまで分離頻度の極めて小さかったSalmonella serovar Enteritidis(SE)が食中毒や散発下痢症から多数分離され出してきた。結局,この年のSE食中毒は全国10数都県にまたがる広域発生であった。本県における発生経緯については昨年の衛生微生物技術協議会第11回研究会で報告したので詳述しないが,骨子を要約すれば,概略図1のごとくであり,その急増の背景には鶏卵の関与が強く疑われた。そして同時に,病原体検出情報や広域食中毒情報がオンライン化されていれば,もっと迅速に対応出来たのではないかと反省させられた事件でもあった。

一方,この原因の疫学的解析には予研で迅速に実施されたファージ型別成績が有力な武器となった。すなわち,食中毒患者や下痢症患者からのSEのファージ型が問題の鶏卵(及び同養鶏場の鶏糞便,魚粉)から検出されたSEのファージ型と一致したことから,その原因がさらに濃厚に推定されるに至ったのであるが,このファージ34型菌はその後の回顧敵な調査により1985年と1987年の下水処理場下水からも検出されていたことが判明したことから,同ファージ型菌は1989年に県内に突如出現したのではなく,県内−少なくとも下水処理場の所在地である秋田市内−にすでに浸淫していたことが確認された。しかし,これが上述の鶏卵生産養鶏場に波及していったのか否かは判然としない。

また,このSE菌の侵襲は単年度的な現象ではなく,翌1990年に至っても,図2に示すごとく食中毒や散発下痢症から検出され,しかも,1989年に優勢であったファージ34型菌は漸次消退し,これに代わって,4型菌が優勢となってきた。まさに手をかえ品をかえての変化自在な出没ぶりであるが,仮にこれらの原因として,鶏卵が再び関与しているとすれば,極めて安価で消費量の多い重要な蛋白源の1つである鶏卵の安全性にとり,軽視出来ない事態と言わざるを得ない。それだけに,地方の衛生行政の技術的中核である地研としてもこの問題解決に積極的に取り組む必要性があるのではないかと考えられる。この意識の下で,我々は,1991年度の新規事業として,この鶏卵の安全性に関する調査研究を開始することにしたが,地研レベルにおけるこのような研究と同時に,上述の病原体検出情報のオンライン化も可及的速やかに具体化されることを強く望みたい。

最後に,ファージ型別をしていただいた予研の中村明子先生に改めて深甚の謝意を表します。



秋田県衛生科学研究所 森田盛大 遠藤守保 山脇徳美 和田恵理子 斉藤志保子 八柳 潤


図1.1989年,秋田県内における胃腸炎散発例からの月旬別SE分離経過,SE食中毒,養鶏場関係からのSE分離経過,並びにSEファージ型
図2.1990年秋田県における散発下痢症例からの月旬別SE分離経過
SE食中毒,鶏卵からのSE分離,並びにSEファージ型






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