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Vol.12 (1991/4[134])

<国内情報>
静岡県で分離されたS. Hadarの疫学的検討


病原微生物検出情報によると本邦において1981年から報告されるようになったS. Hadarは,最近,各地で分離され注目されているが,本県においても散発下痢症患者からの分離率に急激な増加が認められた。そこで,これらの散発下痢症の感染源および感染経路を検討し,予防対策に役立てるために,1986〜1990年の5年間に県内の病院および保健所から搬入された散発下痢症患者材料,1988年2月から1990年5月まで食肉用鶏(ブロイラー),飼料,食鳥処理場の処理工程,市販食肉を対象にS. Hadarの汚染状況を調査した。また,これらの分離株を対象にファージ型別(国立予研に依頼),プラスミドプロファイル,薬剤感受性等の試験を行い疫学的検討を試みた。

その結果,散発下痢症患者から分離された各年度のサルモネラ例数に占めるS. Hadarの割合は,1985年1.4%(2/141),1986年4.7%(7/148),1987年12.5%(17/136),1988年19.5%(23/118),1989年10.5(9/86)であった。特に1988年はS. Typhimuriumを抜いて最も分離率が高かった。また,これ以外の材料からのサルモネラは飼料の3.3%,ブロイラーの4.0%,食鳥処理場の62.5%,市販食肉の18.5%,計18.3%(219/1,197)から分離された。このうちS. Hadarはブロイラーの糞便,胸部の羽毛,食鳥処理場の輸送カゴ,機械器具,冷却水,処理中の屠体,処理後の屠体,市販のトリ肉,豚肉から計37.1%に検出され,食鳥処理場と市販トリ肉の高度な汚染がみられた(表1)。

これらの分離株のファージ型を表2に示した。2型が最も多く,次いで11型および22型であり,供試株は少ないが,散発患者とトリ肉等由来株の間には共通性が認められた。ファージ2型は東南アジアでの検出率が高い株といわれているので,国内の分離株が同地域と関連があるかどうか,今後の調査が待たれる。一方,本血清型のプラスミドプロファイル試験の結果,散発患者由来の64.7%(33/51),トリ肉由来株の79.1%(53/67)がプラスミドを保有していた。これらのプラスミドパターンは多岐にわたり,患者及びトリ肉等由来株間には有意な共通性は認められなかった。しかし,採取日時,検体の種類,採取場所ごとの比較では,同一派生株による汚染と考えられるものもみられた。

薬剤感受性試験(MIC)はABPC,SM,KM,TC,EM,CP,CER,NA,FOMの9薬剤について実施したところ,散発患者由来株とトリ肉等由来株は同様な耐性パターンを示した。すなわちABPC,KM,CERでは2峰性を示し,SM,TCに耐性の株が多かった。耐性株は散発下痢症由来株の90%(46/51),環境由来株の72%(48/67)で,計79.6%であった。散発患者由来株は12種の耐性パターンに分かれ,多剤耐性株が多かったが,トリ肉等由来株は16種の耐性パターンに分かれ,単剤耐性株が多い傾向を示した。しかし,1989〜1990年の2年間に分離された株では両者ともSM,TC耐性株が多く,共通性がみられた。

以上の結果から,サルモネラの疫学的な解析にはファージ型,プラスミドプロファイル,薬剤感受性試験を併用することが有用と考えられる。



静岡県衛生環境センター 仁科徳啓 三輪好伸 三輪憲永 増田高志 森 健


表1.飼料,食肉用鶏,食鳥処理場,屠体及び市販食肉からのサルモネラの検出状況(1988.2〜1990.5)
表2.S. Hadar検体別ファージ型





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