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青森県弘前市および周辺地域の開業医を対象に,1984年〜1990年の7年間における臨床材料からのYersiniaの検出状況について集計したので報告する。
Yersiniaの分離は,直接分離培養法で行い,SS寒天培地およびDHL寒天培地で35℃,18時間培養後,25℃でさらに18時間培養を継続した。なお,増菌培養は併用していない。
1984年1月〜1990年12月に,臨床材料から分離したYersiniaは98株で,菌種はY. enterocolitica 97株,Y. pseudotuberculosis 1株であった。検出材料については,Y. enterocoliticaは糞便から92株,虫垂内容物から5株で,また,Y.pseudotuberculosisは静脈血から分離されたものである。
表1に糞便からのY. enterocoliticaの検出状況を示した。7,784検体検査中,Y. enterocolitica は92株検出され,検出頻度は年によって多少の差はあるが平均1.2%であった。
Y. enterocoliticaの検出数を月別にみると,9月をピークに4月〜11月に多発しており,12月〜3月の冬季間においては減少の傾向にあった(図1)。
Y. enterocolitica検出患者は広い年齢層にわたり分布していたが,乳幼児,小児に多い傾向が認められ,15歳以下で83.5%を占めた。中でも0〜1歳に極めて多く34.0%を占めた(図2)。なお,男女比は男性65例,女性32例で,男性に約2倍多く検出された。
Y. enterocoliticaの血清型はO3が90株で92.8%を占めた。その他O5が1株,O8が5株,型不明1株であった。血清型O8およびO5については市販抗血清に対しての凝集しか確認しておらず,今後,さらに詳細なO抗原の解析が必要である。
1984年〜1987年に分離したY. enterocolitica(血清型O3)40株については生物型も調査したが,生物型3Bが38株,4が2株で,生物型3Bが優勢であった。近年,血清型O3における生物型3Bの増加傾向が指摘されているが,当市においてもこの傾向は明らかであるように思われた。
1984年に経験したY. pseudotuberculosis敗血症例は比較的稀なものと思われる。患者は10歳の女児で,2週間にわたり原因不明の発熱を繰り返したのち,血液培養を実施し,本菌を検出したものである。血清型は3であった。同時に行った糞便の増菌培養からは本菌は検出されなかった。本症例の臨床症状は発熱が主体で,報告されているような多彩な症状は発現しなかった。
Y. pseudotuberculosis症は中国地方に多発している傾向にあるが,当市においても確実に存在することが示唆されたため,今後選択培地の使用,増菌培地の併用など本菌検索のための検査体制を再考し,糞便からの検出にも努力したい。
弘前市医師会成人病検診センター 斉藤雅明
青森県環境保護センター 豊川安延 大友良光
表1.糞便からのY. enterocoliticaの検出状況(1984年1月〜1990年12月)
図1.Y. enterocoliticaの月別検出状況
図2.Y. enterocolitica検出者の年齢分布
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