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Vol.12 (1991/7[137])

<国内情報>
カツカレー弁当によるウエルシュ菌食中毒事例について−川崎市


本年4月2日,川崎市内の「Hフード」で調製したカツカレー弁当を原因食品とするウエルシュ菌による食中毒が発生し,患者数645名に及んだ事例の概要を報告する。

事例の探知は4月3日9時25分および10時30分に川崎市内の2事業所から下痢,腹痛の食中毒様症状を呈した社員がいるとの届出がN保健所にあり,ただちに調査を開始したところ,4月2日の昼食用に「Hフード」で調製したカツカレー弁当を摂食しており,当該弁当は,川崎市のほか,東京都内,横浜市内の161事業所に2,165食を提供し,645名(29.8%)の有症者がいることが判明した。

潜伏時間別患者発生状況は,早い人で喫食後1時間,遅い人で42時間であり,そのピークは8〜14時間で,潜伏時間判明者519名のうち375名(72.3%)の患者が発症していた。また,患者の症状は,下痢(1〜数回),腹痛,嘔吐を伴う軽いものであった。

原因食品としては,4月1日,4月2日の昼食が疑われたが,検食の細菌学的検査を実施したところ,4月2日昼食のカツカレー弁当(カツカレー,ぜんまいこんにゃく煮,福神漬,もやし,マカロニサラダ,米飯)のカツおよびカレーの2品目からウエルシュ菌が検出されたことにより,4月2日昼食のカツカレー弁当と断定した。その血清型はHobbs型,型別不能であった。

弁当の製造は,弁当原材料を仕入れ,「Hフード」で調理加工し製品として配送するシステムをとっている。ウエルシュ菌が検出された食品のうち,カツは冷凍品であった。カレーは,豚小間肉,じゃがいも,たまねぎ,にんじん,カレールー(カレーフレーク),カレー粉を材料として作られたものであった。

弁当の製造工程:カレーは,4月1日15時30分から仕込み(肉,野菜,カレー粉)を開始し,16時05分に終了し常温で放冷放置した後,ふたたび4月2日4時と5時30分に前日に仕込んだものを10分間加温し,カレールーを加え5分間加温して常温で放冷放置した。

他の材料は,4月2日4時から仕込みを開始した。盛付けは,第1回目:5時30分,第2回目:6時30分に終了し,室温で放置し9時15分から各事業所に配送した。

今回の場合,カレーの仕込みの後,約12時間常温で保管したためにウエルシュ菌が混入,発育し,また,最終製品ができてから喫食する約6時間常温で保管したために増殖したものと思われる。

その他の食品からは,カレー粉(4/4,4/9)からウエルシュ菌が2件検出された。他の食品,ふきとり(器具,手指)はすべて陰性であった。

患者および調理従業員の検便421名のうち341名(81,0%)からウエルシュ菌が検出された。患者386名中335名(86.8%)から本菌が検出され,この内訳は,川崎市:279名中(267名(95.7%),東京都:72名中50名(69.4%),横浜市:35名中18名(51.4%)であった。その血清型は,Hobbs型では型別不能であった。川崎市,東京都分離菌株について,東京都立衛生研究所の自家調製血清(TW型別)で型別を行い,川崎市:144名,東京都:50名がTW−20型に型別された。

調理従業員35名中6名からウエルシュ菌が検出され,その血清型は,Hobbs-UT型5名,TW−20型1名であった。

TW型別血清を分与いただいた東京都立衛生研究所微生物部細菌第1研究科に深謝いたします。



川崎市衛生研究所 大久保吉雄





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