HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.12 (1991/7[137])

<国内情報>
腸管出血性大腸菌O111:H−による集団食中毒の発生−新潟県


発生概要:1991年4月28日16時50分に県立M病院の医師より保健所に腹痛,下痢を主症状とした小学校生徒4名が入院した旨,届出があった。保健所の調査では町立S小学校全児童663名と学校職員34名の計697名中,243名が同様の食中毒症状を呈し,99名が医師の手当てを受け,うち12名が入院していたことが判明した。引き続き疫学調査と病原検査を実施した結果は次のとおりであった。

患者および症状:患者の年齢は5〜9歳の151名(男子75名,女子76名)および10〜14歳の83名(男子38名,女子45名)であった。患者の発生は4月24日から5月2日の間で,最も多くの患者が発生したのは4月27日であった。原因食品は特定できなかったので,潜伏期間は不明である。症状は主に臍周囲または上腹部に10〜15分間隔の周期的腹痛で,これが最も多く91.5%,次いで軟〜水様便の下痢が62.4%,発熱は12.8%でこのうち8名は38℃以上で,残りは37℃前後であった。嘔吐12%,頭痛6.4%,嘔気および放屁5.6%等の順であった。

原因食品および原因菌:患者の発生状況および共通食事の摂食状況から4月22日から24日までの学校給食が原因食事と推定されたが,給食施設および調理器具のふきとり検査では原因菌は検出されなかった。また,5名の調理従事者の検便で1名から原因菌が検出されたが,事件前後とも健康であり,事故の原因に関係があったのか,あるいは同一原因食品を摂食した暴露人口の1名であったのか明らかではない。なお,学校の給水施設は上水道を使用し,再滅菌機を設置しており,調査時の残留塩素濃度は0.05ppmであった。県立M病院で手当てを受けた患者の中の16名および保健所で実施した患者および従事者3名の便の検査で18名からO111:H−と他に1名からO26が検出された。O111:H−の全株はマウス致死活性,ベロ細胞に対する毒素試験およびbead-ELISA法によるベロ毒素型の検査をおこなったところ,15株はVT1&2であったが,3株はVT2であった。また,1株分離されたO26はベロ毒素は検出されなかった。

考察:本事例では患者の発生が9日間と比較的長く,当初,学校側では風邪を疑う等腸管出血性大腸菌による感染にみられる特徴もあったが,25日以前の食事が残っていないこと,給食施設,調理器具から原因菌が検出されていないことから,原因食品および原因菌の汚染経路は決定できなかった。24日の献立は厚焼きたまごと生野菜,23日は白身魚タルタルソース,22日はシュウマイ。もやしゴマ醤油とチキンライス等で,いずれも半調理食品を利用していて十分な再加熱のなかったことが発症につながったものと考えられている。

(bead-ELISA法による検査は京都大学医学部微生物学教室 竹田美文教授に依頼した。)



新潟県衛生公害研究所





前へ 次へ
copyright
IASR