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Vol.12 (1991/7[137])

<国内情報>
SRVによる急性胃腸炎集団事例−岩手県


1990年にSRVによると推定された2件の集団食中毒様事例を経験したのでその概要について報告する。

発生概況:患者発生状況を表1,臨床症状を表2に示した。事例1は2月に県北部のF村で発生した事例で,患者は村内すべての小中学校5校と学校給食センターで発生し,対象者606名中177名が発症した。患者の発生が学校給食センターの給食実施範囲に一致していたことから,当初,学校給食を原因とする食中毒が疑われ,患者便および検食について細菌検査が実施された。しかし,細菌検査によっても病因と考えられる病原細菌が検出されず,この時点でウイルスが疑われ,細菌検査後の保存患者便について電顕によるウイルス検索に着手した。

事例2は4月に県中央部のM市の養護施設で発生した事例で,同施設は扶養者のいない5〜15歳の子供を収容する寄宿舎で,施設内の調理室で調理した食事を収容者にのみ提供していた。患者は収容者に限られ,41名中31名が発症した。検査に当たっては事例1の教訓が生かされ,細菌検査材料と同時にウイルス検査材料が採取され,検査に着手した。両事例の発生状況は,これまで報告されているSRVによる急性胃腸炎の集団発生の特徴「嘔気・嘔吐・腹痛・下痢を主症状とし,単一暴露型発生を示し,全般に予後は良好である」に類似していた。

検査成績:表3にウイルス検査結果を示した。両事例とも細菌検査では病因と考えられる病原細菌は検出されず,便の電顕検索により,ともに辺縁がギザギザで突起様構造を有する直径38nm程度のウイルスが検出された。血清診断のうち免疫電顕法においては,事例1では急性期血清の採取時期が遅れたためか,抗体の有意上昇が確認できなかった。事例2では3名中3名に抗体の有意上昇が確認されたウエスタン・ブロット法は宮城県保健環境センターの梅津先生に実施していただいたが,事例1の患者のウイルスを抗原にした場合に両事例とも3名中1名に抗体の有意上昇が確認された。一方,東京86−510,千葉80K−401,宮城89−12Yを抗原にした場合には抗体の有意上昇は認められなかった。最後に,調査に当たり種々ご指導いただいた岩手医科大学細菌学教室 川名林治教授に深謝します。



岩手県衛生研究所
斉藤幸一 相川 裕 田村道子 吉田容章 梅木久一


表1.患者発生状況
表2.臨床症状の発現率
表3.SRV検査結果





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