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伝染性紅斑は主として小児のかかる発疹性疾患である。1986〜87年の全国流行でも,患者の多くは15歳未満であった。しかし,現在19〜35歳の年齢層での抗B19ウイルス抗体保有率は約20%と低下しており,成人の罹患例も少なからず見られている。とりわけ,小児に接する機会の多い保母,小学校教師,看護婦等は伝染性紅斑流行時に自ら罹患し,また,ウイルスを伝播する可能性がある。最近,病院実習中の看護学校生を含めて3件の病院内伝染性紅斑流行例について検索したので,その概略を示し,ウイルス学的検査を行う際の留意点について述べる。
例1:1988年冬,大阪府下の看護学校生1クラス(26名)。流行例に先立って,入院患者にB19感染が認められている。流行の10ヵ月前,流行時および1.5月後の血清が得られた。抗体検査の結果10名(38.5%)にIgM抗体が検出された。流行前IgG抗体陽性者8名(30.8%)は流行を通じ抗体価の変動が見られなかった。8名(30.8%)は未感染で残った。ウイルス抗原陽性血清はなかった。
例2:1990年春,東京。主として小児科看護婦間に流行。大規模な院内感染防止対策がとられた結果,流行は大きな広がりを見せることなく約1.5月で終息した。流行時,患者周辺の有熱者3名の血清中にB19ウイルス抗原が検出された。感染者34名の47%が無症状であった。
例3:1991年2月,長野県。産婦人科看護婦を中心に流行した。入院患者を含め33名について検索の結果,看護婦6名にのみ抗B19IgM抗体が検出された。ウイルス抗原は全例陰性。1月後の検索でも新たな感染者は認められなかった。
考察および対策
1.感受性者が増加していることから,院内流行は今後も起こり得る。
2.流行は,爆発的ではなくだらだらと散発的に発生することが多い。
3.流行が発見された場合は,患者とりわけ免疫能の低下している者や妊婦への感染防止に努める。ウイルスの伝播は主として飛沫感染と考えられている。また,発疹や感染炎症状が出た時点では抗体が産生され,感染力はほとんどなくなっている。前駆症状である軽い発熱時にある者を休ませたり,マスク,手洗いの励行等の対策が考えられる。
4.ウイルス検査の材料は,血清採取を主体とする。発病者のみならず周辺の者からも採血し,抗原,抗体を検索する。約1月後に再度採血し検査を行うことは,流行の動態を把握する助けとなる。
国立予防衛生研究所 松永泰子
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