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エンテロウイルスを主因とする無菌性髄膜炎(AM)は,毎年全国各地で散発的に,ときには流行的に発生をくりかえし,主流型も年々異なっていることが感染症サーベイランス情報によりかなり明白にされてきた。一方,エンテロウイルス感染症は多くが不顕性感染に終わるため,予防対策をすすめる上にも不顕性感染の実態を明らかにする必要があると思われる。そこで,埼玉県では1985年以来AM患者家族からのウイルス分離を試みているので,その結果の一部を紹介する。
患者対策は熊谷市1小児病院定点のAM患者とし,家族はその患者家族とした。患者1人あたりの被験家族数は2〜6人であった。患者の検体は髄液と糞便,家族は糞便のみとし,1985〜87年,1990年の4年次の6月〜11月に採取されたもので,患者からは急性期に,家族は患者の7病日前後に採取された。分離細胞にはHeLa,RD−18S,Veroを用いた。
4年次の患者および家族からのウイルス検出率は患者が33.3〜68.8%,平均49.3%,家族は19.7〜37.5%,平均26.2%であった。主な分離ウイルスは1985年エコーウイルス(E)6型,86年E7型,87年コクサッキーウイルス(C)B3型,90年E9とE30型であり,全国の主流型とほぼ同様であった(表1)。これらのエコー,コクサッキーB型分離にはRD−18S,HeLaが最適と思われた。細胞の感受性は,コクサッキーB型ではおおむねHeLaの方が高く,エコーウイルスではRD−18Sに高い傾向が見られた。Veroからは1例も分離されなかった。患者の年齢は各年次とも9歳未満が69〜95%を占め,ウイルス検出率も80%以上はこの年齢層が占めた(表2)。家族からの検出状況については,被験家族の年齢は0〜83歳まで幅広く分布していたが,例数,検体等の不足,また,年齢等の記載もれがあり完全な成績が得られなかった。表3に家族の年次別,年齢階級別ウイルス検出状況を示した。20歳未満の検出率は33.3〜63.7%,平均48.4%,20歳以上では5.4〜27.8%,平均14.9%であった。このように低年齢層に高く,成人に低率の傾向はいずれの分離型にも認められた。この4年次の20歳以上分離陽性者のウイルス分布を年齢別にみると20〜60歳代と幅広く分布していた(表4)。なお,家族分離陽性者の有症率はその陽性総数63例中12例(19.0%)であり,症状は発熱,頭痛,嘔吐のいずれかが認められた。その発症は患者発病の数日後に見られた。
以上のウイルス分離を基にした成績から患者家族の感染率は約30%で,低年齢層に高く,特に0〜4歳に高いことが明らかにされた。また,患者家族感染者の約80%は不顕性感染とみられる。さらに血清学的検査並びに詳細な疫学調査を加えることにより一層正確な不顕性感染率が得られると思われる。
埼玉県衛生研究所
村尾美代子 大塚孝康 篠原美千代 内田和江
表1.無菌性髄膜炎患者および家族の年次別ウイルス検出状況
表2.無菌性髄膜炎患者の年齢階級別ウイルス検出状況
表3.患者家族の年齢階級別ウイルス検出状況
表4.20歳以上(患者家族)のウイルス検出状況
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