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ここ数年,インフルエンザウイルス感染については,大流行もなく,関心も薄れ,ワクチン接種率は極端に低下してきている。とはいえ,毎流行期はカゼ様疾患患者を主体にウイルス分離を行い,1989/90,1990/91年の各シーズン,それぞれAH3,B型計約350株,AH1,AH3,B型計約200株を流行起因ウイルスとして同定した。
そのような流行状況下,ほとんど上気道症状を伴わない脳症患者10例(1989/90年9例,1990/91年1例)からウイルス分離を試みる機会を得,結果として8例にインフルエンザウイルス感染を確認した。内訳は1989/90年7例(AH3型2例,B型5例),1990/91年1例(AH1型)であり,そのうち4例は死亡した。分離材料は主に気道分泌物(一部剖検材料)であった。
以下に死亡した4例について,現病歴,ウイルス分離成績等を示す。
症例1:1歳・男
診断:Reye症候群
現病歴:1989.12.27 6:00 39.2℃ 救急受診
12.28 41.0℃ 入院
12.29 5:57 永眠
ウイルス分離:
1989.12.29採取 挿管チューブ Infl. AH3
鼻汁 (−)
髄液 (−)
血液 (−)
脳 (−)
症例2:2歳・女
診断:急性脳症,肝障害,インフル?
現病歴:1990.1.21 38.7℃ 受診
1.23 入院
1.24 14:45 永眠
ウイルス分離:
1990.1.23採取 鼻汁 Infl. AH3
症例4:7歳・女
診断:急性肝不全,急性脳症,上気道感染症
Reye症候群
現病歴:1990.2.26 夕方 39.4℃ 受診
2.27 20時頃 41.6℃ 入院
2.28 15:55 永眠
ウイルス分離:
1990.2.28採取 咽頭拭い液 Infl. B
挿管チューブ Infl. B
症例6:2ヵ月・男
診断:脳症
現病歴:1990.3.30 母乳摂取量減少
3.31 入院
4. 4 永眠
ウイルス分離:
1990.3.31採取 気道分泌物 Infl. B
の4例であった。
その他,死亡例として:2ヵ月・男
診断:乳児突然死症候群?
現病歴:1991.2.20 呼吸停止 永眠
ウイルス分離:
1991.2.20採取 挿管チューブ Infl. AH3
が確認された。なお,全例ワクチンは未接種であった。
このように実際は,インフルエンザウイルス感染に関して,特に乳幼児では感染の機会も少ないとして見過ごされることも多いが,一般的なカゼ症状の原因としてだけではなく,脳症や,原因の同定されないことの多い乳児突然死症候群等重症な病因と成り得,決して軽視されてはならない感染症であることを示唆するものである。
大阪府立公衆衛生研究所
前田章子 加瀬哲男 峯川好一
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