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1991年12月,札幌市内私立幼稚園(園児210名,職員13名)の園児を中心に赤痢が発生し,真性赤痢患者が15名にも及んだので,その概要を報告する。
12月6日:札幌市内の小児科医から保健所に真性赤痢患者が発生した旨の届出があり,患者を市立札幌病院南ヶ丘分院に隔離収容するとともに幼稚園職員,患者の家族の検便を実施した。保健所の調査によると,患者は市内の私立幼稚園の園児5歳で,12月1日発熱(39.4℃),腹痛,下痢(血便)を訴え,2日小児科を受診した。小児科医は点滴治療するとともに検便を実施し,民間検査機関においてS. sonneiを検出していたことがわかった。
12月7日:園児の検便を実施した。
12月9日:園児の7名からS. sonneiを検出し,隔離収容した。7日の残りの園児と新たな患者の家族の検便を実施した。
12月10日:園児および職員(各々2回目),園児の家族,患者の家族,その他接触者の検便を実施した。また,疑似患者6名を隔離した。
12月11日:患者の家族3名からS. sonneiを検出し,隔離収容した。さらに新たな患者の家族および接触者の検便を実施した。
12月12日:疑似患者から2名が真性患者と判明した(隔離収容施設で検出)。接触者,患者の家族および園児の家族の検便を実施した。
12月13日:疑似患者からさらに2名が真性患者と判明した(隔離収容施設で検出)。接触者,園児および家族の検便を実施した。
12月14日,15日:園児および職員(各々3回目),園児の家族,接触者の検便を実施したが,真性患者は発見されず,その後の感染者もなく12月20日終息した。なお,本事例の真性赤痢患者は15名(うち当所検出分10名)であった。
当所に検査依頼のあった検体の検査状況を表1,表2に示したが,検便の受検者482名,のべ970検体についてSSおよびSSK培地を用いて検査を行った結果,S. sonnei陽性者は10名であった。また,感染源調査として患者宅で使用していた浄水器および幼稚園で飼育していたカメなどの飼育水を検査したが,赤痢菌は陰性であった。なお,これらの検体についてはセレナイト培地を用いて増菌培養も併せて行った。また,12月10日以降の検便についても,増菌培養を併せて行った。
分離菌株はすべてS. sonneiT相であった。薬剤感受性試験の成績を表3に示したが,10株中9株はTC・SM・i・STの4剤に耐性であり,1株はTC・SM・ABPC・CEX・i・STの6剤に耐性を示した。なお,6剤耐性菌が分離された患者は,医療機関においてAmoxicillinの投与を受けていたことがわかった。
感染源を調査したところ,真性患者のうち7名は届出のあった初発患者と同一クラスであり,ほぼ同時期に感染を受け,その後家族に感染したことが明らかになった。また,患者およびその家族,幼稚園の職員等の海外渡航歴並びに健康状態について調査したところ,本事例との関連は見あたらなかった。なお,幼稚園の飲料水設備は市の上水道直結方式であり残留塩素に問題はなく,給食設備も設置していなかった。したがって水,食品からの感染についても否定された。
S. sonneiの症状は赤痢のなかでも比較的軽く,軽い下痢かあるいは無症状に経過する例が多いと言われている。また,患者の発生も秋〜冬季に集中していることから,風邪などの他の疾病と間違われ早期に発見されず,患者の発生が拡大する傾向にあるとも言われている。しかしながら,本事例においては早期に医師からの届出があり,患者発見後接触者に対する反復検便,施設の閉鎖など,保健所の的確な防疫対策により,他の施設への拡大を防ぐことができたものと考えられる。
札幌市衛生研究所 川合 常明,大森 茂,清水 良夫,菊地 由生子
札幌市厚別保健所 渡辺 弘美,駒井 恵美子
表1.ふん便検査
表2.その他の検査
表3.分離菌株の薬剤感受性パターン
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