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Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)または腸管出血性大腸菌(EHEC)は,従来報告されている下痢原性大腸菌(EIEC,ETECおよびEPEC)とは異なる比較的新しい病原大腸菌で,Vero毒素(VT)産生性が特徴である。本菌によって起こる出血性大腸炎は激しい腹痛と血性下痢を主徴とし,ときに溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発する。1990年に本菌による集団下痢症で2名の幼稚園児が死亡し,10名以上の重症患者が発生した事件を契機に,病原微生物検出情報ではVero毒素産生性を指標としたEHEC/VTEC検出情報の収集を開始した。本報告は1992年5月末日までに病原微生物検出情報事務局に報告されたVTEC情報のまとめである。
1991年1月〜1992年4月に,23の地方衛生研究所において95例のVTECが検出された(表1)。検出数の最も多かった血清型はO157で63例(66%),ついでO111の22例(23%),その他10例であった。その他の血清型としては,O18,O26,O128およびOUTが検出された。
Vero毒素産生性大腸菌の月別検出状況は,8月をピークとする夏季多発のパターンを示し,特にO157の発生傾向と一致した。1991年4月の多発にはO111:H-による集団事例
(新潟県,本月報Vol. 12,bV参照)
の18例が,6月にはOUT:H19による集団事例
(東京都,本号参照)
の4例が含まれている(図1)。患者の年齢分布は5ヵ月から80歳にわたった。特に若年層で多発傾向がみられ,1歳以下16%,2〜5歳27%,6〜10歳28%であった(表2)。
表3はVero毒素産生性大腸菌の血清型,毒素型および臨床症状をまとめたものである。毒素の検出および型別は,Vero細胞のCPE,PCR法,ビーズELISA法,ラテックス凝集反応(LA)等の単独あるいは組合わせで実施された。95例中86例(91%)で毒素型が判明し,VT1およびVT2を共に産生するもの48(56%),VT2のみ産生するもの31(36%),VT1のみ産生するもの7(8%)であった。Vero細胞のCPEでは毒素産生性は判別できるが毒素は不明である。これらはVT型未検査(NT)として扱った。
血便の発生は53例(56%)に,HUSは7例(7%)にみられた。血清型による血便の発生率はO157では38例(60%)とやや高かった。HUSはO157のみに,しかもVT2の検出された事例のみに発生した。
平成2年度厚生科学研究の「腸管出血性大腸菌のわが国における分布状況の調査研究報告−地方衛生研究所分離株の解析−」
(本月報Vol. 12,bT)
によると,1989年および1990年に15例のVTECが検出された。その血清型はO157:H7が10株,O26:H11が3株,O111:H-が2株で,毒素型はVT1とVT2を共に産生するもの7,VT1のみ産生するもの5,VT2のみ産生するもの3であった。今回収集された95例の報告とあわせて,Vero毒素産生性大腸菌のわが国での実態がより明らかになったと思われる。
図1.Vero毒素産生性大腸菌月別報告状況(1991年1月〜1992年4月)
表2.Vero毒素産生性大腸菌の血清型別年齢分布(1991年1月〜1992年4月)
表3.Vero毒素産生性大腸菌の血清型,VT型,臨床症状(1991年1月〜1992年4月)
表1.Vero毒素産生性大腸菌個別情報(1991年1月〜1992年4月)
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